2021
11.24

開運スポットかどーかは疑わしいのでありますけれど、都税事務所の便所から眺める東京の空が好きであります。

四谷三丁目で丸ノ内線を下車し、四谷税務署に立ち寄り、そこから、ふたたび電車で新宿まで。
都税事務所は百人町の小径をはいった一画にございます。

いっぽ、小径に足を踏み込むと、そこは別世界。
耳がいたくなるほどの静寂に沈み、木々の枝すらもそよとも動くません。
おのずと、ひそひそ声になってしまいます。
と、言っても会話する相手がおりませんから声を出すこともないのですが。

そうして、用事をすませると、おもむろに便所のドアから中に。
便器の上側に窓があり、その向こうに青空が広がっているのでございます。
時間の観念が失われ、キンタマの奥がキュンと疼き、その場にしゃがみ込みたくなるのであります。

小便をしよーにも尿管がひらかず、うんうん苦しくなるのでございます。
でも、けっしてイヤな痛みではなく、このスポットでなければ体験できない快い疼痛とでももうしましょーか。
幼い頃、昼寝をして目覚めたら、家は無人で、つぎつぎに襖をあけていくのですが誰もおらず、陽光だけが暗い廊下の奥まで仄明るくのびている、寂しいというより、家の霊にもてあそばれている感覚に似ているのであります。泣くと気持ちがイイのであります。

おもてにでると11月の光が落ち葉から木漏れ日っているのでございます。
自転車置き場のパイプに腰を下ろし、その一画の空気から離れがたいのでした。
役所のコンクリの飾りのない建物と舗装道路。太い桜の木が二本。風景としてはなんのヘンテツもないつまらない場所なのであります。

都税事務所の職員になろうとは思いません。いまの自由な仕事と生活に満足しています。
けれど、この落ち着いた雰囲気はなんなのだろう。
妖精たちに見守られている感覚であります。

死ぬには最適な雰囲気なのでございます。

しかし、慣れてはいけません。
せっかくのスポットに慣れてしまってはいけません。

最愛のお女性は、遠くから眺めているのがイチバンだという意味のことを著名人が語っていたような記憶がありますが、まさにソレであります。

キンタマの疼痛がとれぬうちに、その場を後にして、喧騒の大久保へと向かったのでございました。