2022
02.15

東京には美しい坂が多く点在し、この幽霊坂も、心がはずむ坂の一つであります。

世界で発展する都市は、ふしぎと丘陵に恵まれている一致がございます。
東京というか、江戸は、本郷台とか目白台など、それぞれに坂があって、また絶妙な名称がつけられているのも趣深いのであります。

本日は、用事があり四谷に出向き、そのまま事務所に、
「歩いていくかな」
の気分になりまして、津の坂のゆるやかな下り坂から合羽橋までいき、そこから早稲田通りへと抜けたのであります。

そこで、幽霊坂にあたりまして、一段一段をかみしめて登ったのでございました。

しかし、市谷駐屯所から、この辺は、知らない場所ではございません。
週刊誌や月刊誌に、さかんに原稿を載せていた頃、知り合いのライターさんなどと飲みに歩いた領域でございました。
が、雑誌の衰退とともに、彼らと顔を合わすことも無くなったのでございます。
私メは、ゴールデン街が苦手でありまして、むしろ、住宅街から一歩出た場所にある飲み屋が気に入っておりましたです。

ゴールデン街は、通ぶった文化人がいるで、そこらへんに抵抗がございました。
文壇バーも、同じ理由で避けたい飲み屋であります。
新宿三丁目のオカマバーも苦手。
ところが、オカマバーで、私メは妙に好かれるから困ったものでありました。抱きつかれたり、肩を揉まれたり、そんな嫌がる私メを見るのが楽しいのか、〆の店として半ば強制的に連行されるのでありました。

が、いまは誰もおりません。
みんな散り散りでございます。
お金を借りたまま、ドロンをきめたライターさんもございます。
生きているのかどーかもわかりません。

言えることは、誰一人いなくなってしまったのでございます。

そーいう意味で幽霊坂を登ったのでありました。

登り切りますと、事務所はもう目と鼻の先。

小さな旅の終わりでございます。
私メは東京の方々からすれば、よそ者。流れ者でございますゆえ、そこへんはわきまえておりますです。好奇心を控えめに、我が物顔にならぬよーにと、気配を殺しての散策でございます。