2022
03.01

このひと月、モリオカを離れている期間、もしかすると、
「再会できるのではないか」
ずっと、ジェンダーの蘭丸さまのことだけを想って日々を過ごしてきたよーな気がいたします。

つんのめりながら、蘭丸さまの勤めていたコンビニに小走ったのでございます。
うつむき、顔を隠して、老母の確定申告書の資料をコピーしていることだけに専念する素振りをしながら、おそるおそる…。

「いない…」
いない、いない、いない、いない、、、、、、のです。

淡い期待はうらぎられ、店内が空虚にかんじられたのです。
コビーの原稿を取りそこない、ひらりと舞い落ちた床にしゃがんだ時、そーいえば、蘭丸さまは、このへんにかがんで仕事をしながら、
「なによう」
私メを冷たく見上げていたものでした。
蘭丸さまと同じ姿勢になり、外を眺めましたら、雨が、ふいに雪に変わっておりました。春の雪。

突如として、「そーか!」合点がまいりました。
きっとオミクロンに罹り入院しているのだ、それに違いちがいない。
天啓でございました。

と、ほとんど同時に、
「中国人め~」
私メの蘭丸さまを、感染させた原因である中国人に対する怒りが、殺意となって逆巻いたのです。

「蘭丸はどこの病院ですか。中央病院ですか、それとも医大ですか。何階ですか。何号室ですか」
レジで、たしかに若い男の店員に訊いたはずでした。が、店員は、ニヤリと薄ら笑いを浮かべ、タバコを手渡しただけでありました。

ちきしょう、ちきしょう、どいつもこいつもコケにしやがって!

何としてでも病室に行かなくちゃ。

そして抱き起し、肺にたまったウィルスを唾液ごと吸わなくては。ボクが治してあげるからね。
ああ、唾液はかすかにニンニクの臭いが混じっているだろう。その唾液は、私メの口から糸を引いて鎖骨にしたたるだろう。唾液ののこりは重たく私メの食道を通過するだろう。食道は異質の唾液が魂まで火照らせ、そのまま体内に溶け合って浸透するだろう。もっとください。いっぱい、いっぱいください。できれば覆いかぶさって、上からもっと唾液を垂らしてください。
私メはなおも蘭丸さまの口を吸い、舌の粒子のひとつぶひとつぶを味わうのだ。前歯で甘く齧ってやろう。それから歯茎の裏側の硬さを舌先で確かめるのだ。シャツをたくしあげ、胸と胸をあわせ、骨ばった蘭丸さまの肋骨をおれるほど抱きしめたい。
その真実の愛のまえに、蘭丸さまは、「愛してます」と言ってくれるだろうか。
言ってくれなくてもいい。
私メの唾液を、こんどは蘭丸さまの喉の奥に注いであげればいいのだ。むせぶほどに。
「わかってるんだよ」と。

コンビニから出ましたら、雪は、ふたたび冷たい雨にもどり、まるで涙のよーに、私メの顔にふりそそぐのでありました。