2022
06.07

ジムのロッカーを開けましたら、画像のヒトガタが目に飛び込みましたです。
誰の悪戯か…。
善意にいちどは受けとめましたが、そーいえば。

受付でロッカーの番号を告げると受付が、キイを渡してくれるシステムでございます。
このジムはひとり、私メを快く思っていないお女性がおりますです。
あえて無視を決め込んでおるのですが、こめかみに殺気に近い視線を感じることがあり、すると、鏡ごしに、そのお女性がすぼんだ眼で私メを伺っていることがたびたび。

今日は、受付が、その彼女でして、妙な事に、指名したキイを渡すと、その私の直後の会員に対してミスを連続させたのであります。「35番じゃないよ、33番だってば」など、ヒトガタを目撃してから考えると、あきらかに動揺していたのでありました。

「悪意に取ったほうが良さそーだな」

しかし、呪法とは、たとえば、このようにヒトガタを使ったのなら、その呪法のタネであるヒトガタを見られた時が最後なのであります。
なぜなら、このヒトガタなら、ヒトガタの形から、どの流派の呪法であるかがバレるからであります。
バレてしまえば、呪法返しをされるのは必定。

「素人が…!」
呪法は妖怪学の部門の一つであります。
前兆、予言、幽霊、生霊、死霊、人魂、鬼神、悪魔、前世、死後、六道、再生、天堂、地獄、祟り、厄、祈祷、呪詛、霊験、応報…などなど多岐にわたり、宗教的な現象ともあいまって、また迷裏に彷徨する愚衆の戯言に惑わされつつ、いまの世に伝わっておるのであります。
科学や一般の常識という観点からは隔離されておりますが、それぞれに流派があり、そしてそれぞれに厳格な作法がございますです。
素人が…!
と心で呟いたのは、この呪法が、あまりに幼稚、あまりに稚拙、あまりに未熟だったからであります。
正しい作法を守らなければ、たんなる迷術にすぎません。
しかし、念のために、ロッカーの上下を入念に調べましたが、ヒトガタの他は、なにも施設されておりませんでした。
ヒトガタには蝋で何か文字が透明に書かれておりました。
おのれの不幸を、このロッカーを使用した者に移そうという魂胆でございましょー。

おそらく、先月の30日の新月の日にロッカーに施設したものと断定し、
「あの流派であろう」
気学派崩れの術師に依頼したものであることも、このヒトガタから見て取れるのでありました。

言っておきますが、ジムのなかで私メが易者であることは誰一人知りません。
が、私メは、そのお女性が神事に強い興味を有していることを、ジムの会員のオバちゃんたちから耳にしたことがございますです。

本当の呪術がいかなるものかを身もって知りたいのかもしれませんです。術師もろともに。

帰り際、ロッカーのカギを返す際、これほどの人懐っこい笑顔はない笑顔、そう、若い頃の近藤正臣のクシャッとした笑顔を意識して作ったことでありました。