2022
06.14

嘘のよーな色で、紫陽花が咲いているのでした。
フェンスから逃れ太陽の光が欲しいのか、それとも太陽を避けたいのか。

梅雨空の、ときおり降り注ぐ陽光に、裏道は漂白され、その日差しは季節が夏であることを告げているのでありました。

戻れないのであります。
春にも、昨年にも、一昨年にも戻れません。

では、10年前には何をしていたか。
ああ、白楽の邸宅にお邪魔し、「占いとワインの夕べ」を計画していたのは、たしか10年前のいまごろではなかったか。
それが十傳スクールの前身なのでありました。

無音のまま思い出の映像だけが、コマ落としのよーにパタパタと浮かんできます。
東日本の震災から間もない頃で、時代はいよいよスマホへと移行しつつあるのでありました。

私メは、いまより少し若く、仕事のほとんどは原稿作成でして一晩くらい徹夜しても、そのまま飲みにであるいても平気でございました。
しかし、不安が、鳥の影が路上を刷くように掠めるのでした。
不安がどこから湧き上がってくるのか説明するのは難しゅうございます。ほとんど本能的でありまして、が、その不安には見覚えがあるのでありました。
お女性との関係が微妙に歯車が狂っていく、あの予感。
なにを話しても、相手の耳に届かず、相手の話が空中で分解されて頭脳に届かない、あの感じ。

通っていた占い教室での仲間との違和感。ジプシー事務所での異なる空気感。
手乗り文鳥が猫に食われていたことを、部屋のドアを開けたとたんに察知した時の、身震いする、あの直感。
総じて申せば、運勢の季節が変化する予感でしょーか。

時間は未来へと流れるばかりであります。
「時間ですよ~時間ですよ~」

いままで、歯車の軋む時代の変化の音の幻聴を聞いたとき、どのよーに対処してきたか。
なにもしなかった。
いや、した。

毎夜のよーに襲ってくる悪夢に答えを求めていたのであります。

その夢には、かならず異様な色彩の紫陽花が登場していたのでございます。