2022
06.20

ふと、その気になり、いぜん住んでいた辻堂周辺を散策したのでした。
まるで知らない町に変わっておりました。
知っているはずの場所なのに、記憶を失ったよーに、様変わり。

別れたお女性と、10年後に再会した如しであります。
事実、足が遠のいてから七年ぐらいは経過しているはずです。

裏通りの路傍に、日清日露戦争で没したお方の墓が点在していたのに、それらはキレイに整理され、また涼やかな松林だった場所には住宅が立ち並んでいるのであります。

調布から、1990年代初頭に越してきた時は、寂しいぐらいの田舎町だったのです。
ひなびた駅の手すりは錆びていて、商店街には八百屋とか魚屋、古本屋がひしゃげて並んでおりまして、
「引っ越しして失敗したかな?」
心細くなった記憶がございます。
そして、ふらふらと散歩していると、地元の兄ちゃんに、「おい待て」と呼び止められ、
「流れ者だな」
問い詰められたこともございます。田舎特有の地元意識が旺盛な町だったのであります。

かろうじて、わずかに、当時からの古い店が曲がり角などに残っておりましたから、迷うことなく、町の変転を楽しむことは出来ましたが、想い出にひたることは無理なのでした。

が、この辻堂という町に、たいへんな恩を感じております。
私メにとって開運を体験させてもらった町ですから。

不動産屋の言葉を思い出します。
「オノさん、楽しみですよ」
何ですかと首を傾げましたら、
「この物件に住んだ人は、不思議とイイことが続いて、やがて近所の一戸建ちに越していかれるんですわ」
家にも、そーいう何かがあるようですよ、この商売をしていると面白い偶然の一致がありまして…。
この言葉は、ツキ運から見放されていた当時の私メには、麻薬でございました。

その反対もあるかも…とは考えませんでした。もう、それらは体験済みだったわけで。

そして、奇門遁甲の方位をきっちり守り、三か月も前家賃を払い、
「この日だ!」
に越してきたのでしたから。

また来ますから。
開運の町を後にしたのでございます。