2022
07.16

冬まで、気が遠いほどの道のりであります。
「寒~!」
と震えてみたいのであります。

そして、あたたかな言葉をお女性の耳元で囁きたいのであります。
ポケットで、お女性の冷えた手を自分のぬくもりで温めたいのであります。
やっと炎がともった暖炉の部屋で、低いチェロの音楽を聴きたいのであります。

そーいう冬がふたたび訪れるのでしょーか。

ことこと煮立ったスープをゆっくりと胃に納めながら、ワインを交わす冬が。

いままで何をしてきたのかと、冬を思い浮かべつつ、虚脱する時がございます。そういう虚しさみたいな気持ちに包まれる時が多くなりました。

「将来のため」
その将来の到来を信じて疑わず、好きな事を我慢し、やりたいことを抑制し、そーしてケチケチしながら備えてきたのであります。
どこかで、
「騙されているのではないか」
と、すこし疑りながら。

お女性と、毛布にもぐり、彼女の過去の恋愛だの、子供の頃の思い出を聞きたいのであります。
料理でついたニンニクの微かな香りが、彼女の指先に残っているでありましょー。
「ちょっと太った」
「どれどれ」
後ろからお腹の肉を、コメをとぐように円運動につかんでは離し、こぼれる肉をすくう繰り返しの戯れの五指のしやわせ。
欲望よ、鎮まれ。そして時よ、止まれ。
想い出したよーに振り始める雪を、このままの姿勢で眺めていたいのに。
腕をのばしほのかにつめたいミルクティを口に含み、
「歯を磨くのを忘れてた」
「どーする」
「まぁ、いいか」

ああ、そんな冬。

早く死んだほうがマシかもしれないと予感させる時代が来てしまったのであります。
いままで砂だと粗末にしていた日々が、じつはダイヤモンドだったとは。