2022
08.28

実家の冷蔵庫には、賞味期限の極端に切れたものが詰め込まれております。
一カ月前に切れたものならまだ新鮮な方。3月28日と賞味期限が印字されているモノもございます。
「共食い料理を始めます」
老母も齢94歳にして、同等の賞味期限切れ。

卵は7月で切れ、トロロは春先のモノ。ミョウガだけはまだ新しいのでイイのですが、蕎麦は、先月、私メが買い置きしたものでございます。

しかし、
「なんともねぇ」
なのでした。

卵だけは危険を感じたので、温泉卵にして加熱いたしましたです。

このような肥料作りは、手抜きをしてはいけません。
「今夜はインスタントでのヤツでイイんだぁ」
ではダメなのであります。

自分で自分がイヤになるからであります。
味付けを丁寧に、そして複数の料理には、同じ出汁を使わない。
このよーに決めておりますです。

神楽坂での料理は練習。
モリオカの実家が本番。

最近は、近所のオババが、私メのいない留守に尋ねてきて、味見をするとか。
ホトンドが賞味期限の食材なので、
「大丈夫だべか?」
そんな心配は無用だとか。

このササゲも、ビニールに入れっぱなしにしておりましたので、明日には異臭を放つだろう、ギリギリのモノであります。
完璧に加熱しましたです。

いぜん70歳過ぎのお女性が恋をして、目に涙を浮かべて鑑定を受けていたことを思い出すのであります。少女の如しでしたです。
また隠岐の島だったかの混浴で、やはりみたところ70代のお女性と鉢合わせになったことも。顔は日に焼けておりましたが、「イイよね、イイよね」と立ち上がった時、重量感のあるオッパイが、お湯こそ弾きはいたしませんでしたが、垂れることなく見事に吊り上がっているのを目撃いたしました。

「賞味期限は、関係ないな」
関係ある場合も、それはたくさんございますですが。

2022
08.27

「オノの家には何か居る」
亡霊を否定する人も、口をそろえて言うのでした。
しかし、その亡霊たちが、家を建て替えると同時に、どこかへいなくなってしまいましたです。

建て替える前の古い日本家屋には、そこかしこに生ぬるい存在をキャッチしておりました。
リモート講義のために来た貰ったアシスタントは、ギクリと足が止まり、古い母屋に一歩も踏み出せなかったです。

たとえば、隣の部屋でひそひそ話が聞こえます。しかし、襖をあけても誰もおりません。しばらくすると、また声が。
声は、三cmほどの襖の間から発せられているよーでした。
また、友達が「出たー!」と腰を抜かしたのは、鏡。鏡の中を子供が横に走り去ったというのです。
しかし、それらは家族では日常的。
「おらほの家の幽霊は悪いはずがない」
除霊などは思案の外でありました。

無人の玄関先で、草履を脱ぐ音も、よく耳にいたします。

しかし、なかでも驚いたのは、お盆に仏壇の前に出していた雪洞が突如として点灯したこと。
コンセントが外れていたにも関わらずであります。

小人の幽霊もいたそーでして、障子のさんを、平安時代の装束をした小人が走っていたりしたそーでございます。

話せば際限がございません。
お陰で十傳スクールの講義での、これらの話題は尽きることがないのでありました。

それが昨夜、廊下の曲がり角で、なつかしい生ぬるさをキャッチいたしました。
廊下は、突き当りで90度に右に折れ、また90度に左に折れ、その角に突き当りの壁がございます。
灰色のマントをはおった何者かが、正座をしていたよーな。
ほとんど瞬間的でした。
性別もわかりません。
目の端でとらえただけで、ちゃんと見よーとしたら、そこには暗がりが沈んでいるばかり。この曲がり角は夜は漆黒の闇なのであります。むろん照明はございますが。

曲がり角のこのスポットに、甲冑を設置しようかと思っておりましたが、座布団がイイのかも…などと思ったのでした。

しかし…。
なんだかホッと致しました。
「やっと帰ってきたくれたのか」
と。

2022
08.26

自然にガラス戸を開け、カウンターの椅子に座ることのできた自分が以外でありました。
けっして、このラーメン屋のなかに、いや店先を通る勇気すらないと思っておりましたから。

油脂で汚れた店内にはいろいろなメニューが貼られておりました。
こんな風景を、毎日、眺めているのだろうか、あまり似合わないよーな気がするなぁ、蘭丸さまには…なんて思いました。

冷風麺を注文し、前を向き、横をちらりと、逆の横をちらりと。汗をぬぐう素振りで後ろも。しかし蘭丸さまは見えませんでした。
お客の出入りは多く、その人影にたすけられて、店内を見渡せましたが、おりません。

辞めてしまったのでしょーか。

それとも、アレは…二ケ月前にこの店を出ぎわに、ガラスの中から刺すよーな視線を送ってきたのは別の人で、蘭丸さまではなかったのかもしれないと、冷風麺をすすりましたです。

いや、いる。
こめかみにチリチリと、そうジェンダーの蘭丸さまがコンビニに勤めているときに感じた、チリチリとした視線がこめかみに感じられたのでした。

どこだ。

「あっ!」
レジの向こうに。
なによぅ、と挑むような目つきで私メを不機嫌そーに。一直線に視線が結ばれました。
気がつくと、店前の小路から表に出て電柱にもたれておりましたです。

ら・ん・ま・る・ぅ。

私メは、レジでお金を支払うあいだ、うつむいて、蘭丸さまのお顔を見ることが出来ませんでした。

ささくれた指先、その手は男っぽく節太でした。だのに腕首は細く、そこにムダ毛が散らばっておりました。
半袖のクリーム色の店員着の袖から白いTシャツの袖が覗いておりました。
ああ、その腕の先にある腋の下の肉を音を出して吸ったらどんなに…。

そのとき、妙な違和感をおぼえたのでした。
同じ人なのに別人を見ているよーな。双子の姉を妹だと錯覚して喋っている途中で、間違いだったと気づく、あの違和感。

「あっ!」
こんどは声に出ておりました。

胸がはっていたことに気づいたのです。
うすっぺらな胸だったはずです。そうなのだ。コンビニにいたときは、制服が緩くて鎖骨の奥まで覗けていた。
たったいま目にした胸はボタンがはちきれるほどふくよかでした。
「やったな…」
豊胸という二文字がひらめきましたです。
姿をくらましていた数か月間に、蘭丸さまは女へと向かったのでしょー。

ハートがかきむしられる思いでございます。
「欲しい…、どーしても欲しい」
豊胸手術によってつくられた、その乳房をわしづかみにして、ツクシのよーに勃起したペニスを、亀頭を、ざらついた舌で味わいたい。

店に駆け戻り、額で入り口のガラス戸を叩き割り、蘭丸さまにむしゅぶりつきたい炎のよーな衝動でございました。

しかし、私メは電信柱にもたれながらコレラ患者のよーに汗を滴らせるばかりでございました。