2022
11.14

11月だというのに、事務所のある神楽坂は落ち葉が青いのであります。
しかも気温が20度以上。
これでは嘘でも秋だとは言えません。

時間があまったので、久しぶりに神楽坂を散策いたしましたら、中国人が故意にバラまいた新型肺炎以後、ずいぶんと店が失われたよーであります。

失われると、そこにどんな店があったのか、まるで覚えていない、その記憶のあいまいさに驚くのでございます。

人が死んでも同様でありましょう。
60年以上も生きていますと、「死」という観念がずいぶん薄くなりまして、昨日も、
「あいつが亡くなったよ」
学生時代の仲間の訃報を知らされましたが、
「へぇ、そうですか」
心が1ミリも悲しくないのであります。

懐かしい思い出を思い出そうとしても、記憶の映像はとても貧弱で、数ショットが頭の中で繰り返されるばかり。
葬儀に行ってもなぁ…。
遺族という赤の他人にお金を渡して、しらけて帰ることになるのでありましょう。

と、そのとき、遺族は遺族でも、その仲間の配偶者のお顔が浮かんだのでありました。
「奥さんは元気そーだな」
私メの心を読んでいるはずもないのに、電話の向こうで。
ハイネックのセーターをとっくりセーターと言っていた1970年代の11月の今日でした。
白いざっくりとした毛糸のとっくりセーターの彼女は問い詰めるように
「これでエエのね…?」
私メは振り返りませんでした。
「誰にも喋らんといてね」

加茂川は夜霧が出ており、
「寒い」
ジャンパーのファスナーを閉めた覚えがございます。
彼女がお婆様になったお顔を考えましたが、うまく像が結ばれませんでした。
私メより一つ年上。同じサークルの仲間。
死んだ仲間と結婚したのは、そのすこし後でした。

秘密だけが、古ぼけず、カビも生えず、心のフォルダーに残されていたのでありました。