2025
05.26

体力的に消耗が激しいので、ひさしぶりにモリオカの有名店に赴きました。
肉でも頬張ろうかと。
ここの豚肉は旨いのであります。
それと朝鮮冷麺も。

で、席に案内されるのでした。
その途中、トイレから出てきたとおぼしき老婆が、私メの前で、階段をふみはずし、ふわりと紙切れのよーに転倒しかけたのであります。

反射的に腕を差し延ばし、老婆を抱き止めましたです。
瞬間的に左の五十肩に激痛が走りましたが。老婆̪はずるずると腰砕けの状態で、伸びた餅のよーに階段にくずれましたので手を放すわけにも参りません。

すると家族が寄ってきて、老婆の脇の下から引き上げよーとしましたが、
「それではいけません」
と制し、仕方ないので老婆を抱き上げてやったのでありました。おもいがけぬほど軽いのでした。

瞬間、老婆の皺だらけの黒ずんだ瞼が見開き、その瞳が私メの瞳と直線で結ばれました。
意味のある交錯でございました。
老婆の顔は不自然なほど近くにございました。
痩せて尖った鼻梁のしたに、白い差し歯がのぞく、乾いたくちびるがありました。

老婆はお姫様抱っこされたまま、私メの手に、手をかけたよーでした。
ヒヤリとするほどの冷たい掌でありました。その手のひらの中指?の微弱な感触が私メの手の甲はおぼえました。記憶が逆回転いたしました。それは若い頃に、ホントに偶然に手を触れてしまったあとの少女の意味ある恥じらいにも似ておりました。

「膝にゆっくりと力を入れてください」
しずかに床に立ち上がらせたのでございます。

一瞬間の老婆に宿っていたイヤに真剣な眼差しは、ふたたび虚ろにもどり、線香花火の燃えかすなのでした。

おそらく私メより20歳は年上。
もしも、老婆が40歳で私メが20歳なら。
老婆が50歳で、私メが30歳なら。
老婆が60歳で、私メが40歳なら。
これらの条件ならばOKでありましょう。

が、背中を曲げてガニ股で杖をついて家族に連れられて席に戻る老婆の後ろ姿を眺めつつ、それらの妄想を頭を振って追い払うのでありました。
五十肩を二度ほどまわしたのでありました。