04.22
プリプリと弾力のあるよい子袋がございましたので、買っておいたのでありました。
子袋とは子宮だと誤解されやすいのでありますが、卵管なのであります。
この、クネクネした卵管を、先っちょの卵巣から卵子がゆっくりと降りてくるというわけであります。
ブタの卵管ですが、人間のものも同じでありましょう。
転がり落ちた卵子に精子がくっつくと恐怖の妊娠という事態へと展開いたすのは、いうまでもないこと。
モツの煮込みは、子袋が入りますと、いちだんと味が良うございますです。
ひと口大に切り分けまして、そのほかの大腸…いわゆるホルモンとか、ハツ…これは心臓でありますですね。そしてフワ呼ばれる肺臓も加えたのでありました。
料理はいたってシンプル。
臭みをとるために、すりおろしたニンニクと生姜をドバッとかけ、砂糖を大量に投与し、あとは微火にて沸騰するまで煮込むのであります。それに醤油を回し、さらに五分ほど火にかけて完成。
まったくお下品な料理であります。
が、男は突如として、このようなモノを激しく欲するのであります。
「だからスケベなんだね」
と言われたような…えお、あれは遠い昔のことでありました。
この数年は、年甲斐もなくモツをこしらえて食っていることに恥じらいを覚えておりましたから、お女性にご馳走した記憶がないからであります。
誰だっけかなぁ、と思い出して「ありゃ!」とびっくり。
18才あたりまで遡ったからであります。
タッパーにコレを詰めて、お女性の部屋で火にかけましたら「くっさいわぁ」としかめっ面をされましたけれど、一つまみして「これ、いける!」と喜ばれたのでございました。
「いつも、こんなゲテモノ食べてはるん?」
「ということだね」
「だからやわ…」
と会話が続いたのでありました。
しかし、もう、あまり食べられません。
食べ過ぎると胸やけがして、苦しくなるのでありますから。
近所の人を誘いましたら、孫まで総勢五人も連れてきまして「ご飯のおかずになるね」などと、瞬く間に平らげました。
私メは冷酒をちびりちびりとオヤジたちと酌み交わすのでありました。
このモツの煮込みは、亡父から教えられたものであります。
父が死んでは食えなくなるとおもい、生きているうちに真似をして作ったのであります。
そのような食いモノはまだまだあるはずであります。
ラッキョウなどの漬けもの類とか、梅酒などもそうでありますですね。おからもそう。
日ごろのなんでもない味と食い捨てておりますと、その作り手である母とかが亡くなると、二度と口にできなくなるものが、意外に多いのであります。
郷里を喪ったような、たよりない気持ちを抱きつつ、立ち寄った小料理屋のお通しなどに、その味を思いすことが、たまにあるものであります。
味覚というものはセックスと同じく忘れやすいのが特徴。
美味いとか持ち良いという観念は覚えていても、どういうような快感だったかは思い出すことに苦労いたします。
たまには自分で料理をすることは正しいのであります。
きっとその味の基本には、なつかしい幼い記憶が混じっているのでありますから。
亡くなった母は、とても自分勝手で遊び好きな人で、
わたしはそんな母を軽蔑し嫌悪していました。
でも、お料理が上手な人でした。
思い出のメニュー、たまに食べたいなって思って作ってみても、どこか違うわけで。
そういう時って、嫌いだったはずなのに、母の笑顔が浮かんじゃうんですよね…。
●十傳より→料理の味は、その人の魅力でもあるようであります。
切干大根とかゼンマイとか蕗を合わせた若竹煮、白和え…食べたくなります。
練り物は苦手だけれど蓮根と竹輪を甘辛でからめたおかず部門にいれたくない(デザート?)アレ、美味しかったような…試してみようかな?
1930年代生まれの母の年代は、子供の頃はうらなり南瓜・芋の蔓を食べ、母親期ではオーブン、電子レンジが誕生して目覚ましく料理が進歩した世代です。和・洋・中華なんでもあり。大家族で育った母の夢であったのか、おかずはめいめい皿に盛りつけが常で、友人宅の一緒盛りをとても新鮮に感じました。夕餉の支度の手伝いで鰹節を削ったり、すり鉢で胡麻を擂ったり、絹さやの筋を取ったり、鏡開きでは欠餅とスローフード。ですからチャルメラを母が隠れて食べているのを嗅ぎ付けると、「ズルイ! お母さんばっかり!」と言って姉兄で箸の奪い合いでした。母は渋々子供用にチビロクを買うことになりました。
子袋さんはとても美味しいのですが、なかなかお目にかかれません。
我が家のモツ煮は、祖母→父→母からのもの。
生姜・ニンニク・味噌ベースで、小腸・大腸
牛蒡・人参・蒟蒻・豆腐・葱が入ります。
母の後半のところで
脂肪を全て取り除いたバージョンになり
物足りないお味になりました。
時を同じくして他のお料理も全てぼやけた味になりました。
高血圧を気にしての減塩でした。
もともと薄味の母の調理でのさらなる減塩でしたから無塩のようでした。
母の高血圧の源は食とは別のところにあったように思います。
徹底した食改善に励むその姿は一例であって、一事が万事。
のーんびりと深ーく息をはきだして
もっといい加減に良い加減に過ごすことができていたならば…
と煙草の煙をふぅ~~っと深くはきながら 亡き母を思うのでした。
●十傳より→子袋でしたらば、一号線の茅ケ崎から辻堂へ向かう、トートとコナカの間くらいの左側に「ぶたモツ専門店」というちいさな店があり、豚の祟りを全身に受けたようなセムシで真っ赤な口紅をつけたオババさまが出てまいりますです。
有難うございます。
そういえばありましたね、駐車場がなさそうなので
セブンに車を停めさせてもらい買いに行きます。
そして、帰りに念願のギャンブル宝典を…
色々なセブンでチェックをしているのですが、未だゲットできず です。
小学生のときお肉屋さんちの子がいましたが
その子のお父さんも その子も 祟りを受けたように顔が猪八戒でした。
物知りな頭のよい子でした。
●十傳より→それと、藤沢の名店ビルの地下の肉屋でも、たまに子袋がありますです。こっちの方は卵巣付きのナマ。一号線沿いの肉屋の子袋は湯がいておりますです。
モツの煮込み、食べたくなりました。
それからテーブルクロス、いつも素敵ですね。
歴代の先生の恋人たちはいつも手料理を味わっていたんですね、羨ましい。
私は圧力鍋でサッと作る手抜き派ですが、牛筋の煮込みも好き。
牛筋も手に入りにくいんですよ。
先生のオリジナル料理本、ぜひ出版してください、絶対買います!
サイン会でお会いしましょう!
●十傳より→牛筋はじっくり5、6時間煮込んだ方が断然に美味いであります。浅草の屋台で煮込みを頼むと、この牛筋が豆腐入りで出てまいります。
こんにちは。先生のお料理は本当にいつもおいしそうですね。
私は、料理のレパートリーが少なくてこまっています。
先月、イノシシのお肉をいただきましたが、厚いお肉を切れる包丁がなく、
仕方ないので、冷凍庫にしまったままです。
先生、お勧めの料理方法を教えてくださいますか?
●十傳より→イノシシ肉は、鍋に限ります。それも味噌仕立ての。味噌は市販のヤツに酒とみりんを加え、溶けやすいようにしておくわけです。あとは菜っ葉や豆腐をぶちこむだけ。最後にうどんでシメまょう。が、包丁は必要でありますね。肉厚三ミリくらいに切るのがコツであります。
ありがとうございます。涼しい日にトライしてみますね。おいしそう!
ずうずうしくももうひとつ質問です。包丁は一応あるのですが、お肉の切り方のコツは
ありますか?
●十傳より→たぶん、その包丁は先っちょの方は刃がナマってますですね。包丁の腹の方を使い、スゥッと押し切りし、ハァと戻すような要領にすれば良いかと。イノシシ肉の冷凍ブロックは、自然解凍し、まだ肉の真ん中あたりが凍っているうちに、スゥッ、ハァと包丁を入れれば具合よくキレるかとおもうのであります。必要以上の力をいれるとダメですからね。
お礼が遅くなりました。ありがとうございます。
スゥッ、ハァですね。頑張ってみます。
今年は何だかGWなのに、雨が多いですね。
雑草が、アァッと言う間に伸び放題!
●十傳より→陰毛と爪も気づかずに伸び放題となるモノでありますです。
先生の情感溢れるノスタルジィにしんみり‥
そこらの作家より味のある文章です
●十傳より→ほめ過ぎかもです。