2016
11.10
11.10
釣り針が残ったまま、魚屋の店先に、ドンコが並べられていたのでございました。
「安いよ、安いよ!」
と兄さんのどら声。
ドンコは鍋にすると美味い魚でございます。
一皿に五尾で四百円。
買ってしまいました。
で、ウロコを落しながら、つくづく「痛かったべなぁ」と同情してしまうのでございました。
「魚と人間の格闘」なんて言うお方がいますが、絶対に人間に有利であります。バッターとピッチャーが、バッター側が有利なように。
魚は勝負する気持ちなどあるわけがないのでございますし。
「ばかなことを言うなじぇ」
と、最後の友人は語っていました。「魚は人間様に釣られるためにいるもんなんだべ」
その友人とは、よく釣りをしたモノであります。
夢中になって漁果を競っておりました。友人は、水槽まで買って、魚の生態を調べていたほどであります。
ところが、ふと突如として、釣りをしている最中に私メは「バカバカしくなった」と竿を池に放ってしまつたのでございます。
釣り針を外してやりましたが、哀れなのはドンコではなく、釣られたお女性かもしれませんです。
「こんなカラダにされてしまった」
と恨めしそーに見上げた瞳。
その、真っ黒な瞳を見下ろしながらシャツのボタンをはめる男。
「殺そーかな」
と包丁を握るお女性。
「刺すのはオレの役割なんだけどね」
鼻で笑い、包丁を握った細い手首ごとベッドに押し倒す男。
男女の格闘は最終盤にはいると、勝ち負けはみえず、骨までけだるくなるエラ呼吸となるのでございます。