2011
10.01

さだまった店がないということは、とても淋しいことであります。

モリオカに戻るたびにかよっていた飲み屋が閉鎖してから、そろそろ一年。
しかし、その店に代わる飲み屋がいまだ見つからず、まるでよそ者のように店を流浪しているわけであります。

知らない店にさまよい、しばらく水割りをかたむけていましたが、そこのマミーが、そろそろ店じまいをしながら、「お客さん、近くにイイ店があっから、行ってみねっか?」と誘われまして、ともなわれた近くの五階のバーから見下ろしたのが、この画像であります。

モリオカの大通り。

閑散としていますが、私メにはそうは思えません。
この通りを想い出のマボロシたちが行き交っているからであります。

マンガの単行本で一万冊くらいの内容の詰まっている通りなのであります。

「わだしっさ、たまに、ごごさ来て、ひとりで飲むのさ」
とマミーは店のマスターに同意をもとめるように目配せするのでございます。
「カンジ、いいえん? わだしの店よりも」

見たところマミーは、どうやら私メと同じくらいの年齢のようでありました。会話の内容からも、それは感じられ、そしてそれはマミー自身もそれを懐かしいものと受けとめたから、この店に私をいざなったのでありましょう。

思わず、
「セツコを知ってる?」
と聞きたくなりましたが、それは抑えて、薬草酒を飲むのでありました。ナニ言ってるの、知らないわよそんな人と真顔をされるのがこわかったからであります。
「アケミは?」
「クミコは?」
「ヨーコは?」
大通りを彩った女たちの名前が墓標のように浮かんでくるのでございます。

店内は不必要なくらいに暗く照明を落とし、時間をさかのぼる深海の底で、私メはゆっくりとカラダにまわってくる酔いに身をまかせるのでありました。

「…さぁてっと、帰ろっかな。だれもいね部屋さ」
内臓をとろかすようなニオイがかんじられました。

老母が待っていなかったら、どーなっていたか保証できない夜なのでありました。
…ムネン。

  1. サーカスのマミーの新しいお店はどうしちゃったんですか?
    NHKのど自慢に出るくらい、歌が上手な同級生のお店は?
    サイさんは一緒じゃなかったんですか…?

    先生、一人だと、なんか危なっかしいなぁ~。

      ●十傳より→飲み屋の新天地を発見するには、これは一人でなければなりませんです。新らしい自分を発見するためにも。うわっ、カッコ良すぎますですね。

  2. 大通りの交差点、一階がミスドのビルの上の階にあった「14番目の月」がいつの間にかなくなっていたと知った時は愕然としました。
    何処に行ったらいいのか解らない、と言う気持ちを思い知った瞬間でした。

    ティンカーベルという店も、今はどうなった事でしょうか。
    マスターは今もロックしてるのかな。

    検索したらわかりそうな事だけど、引っかからなかったらまた心が路頭に迷うから、
    思い出としてそっと保管しておくのであります…

    ●十傳より→ティンカーベルのあった店は、いま和食屋であります。カウンターのところが座敷になり、フロアのところがカウンター。四角い柱が昔の名残りをとどめているばかりなのであります。

  3. 昨日は約10ヶ月ぶりとなる焼き鳥屋へ一人で行きました。
    以前は男三人の胡散臭い店でしたが
    今回は男一人の焼きかたに女二人のアルバイト店員でした。

    手より口ばかり動く男三人の店は紛れもなく地獄ならぬ「地」でありました。
    手より口を使ってくれる女3人組がそこにいたとしたら紛れもなく「新天地」でしょう。

    早い話目的は”ソレ”ではなく、割引券が有効期限目前だったということでした。

      ●十傳より→新しい店は、物語のステージなのであります。ステージさえあれば配役はおのずつ決まっていくのであります。そして、キャストは集まり、動き出し、でもやっばり最後は傷ついて散っていくのでありましょうか。

  4. …そうなのね、先生。

    ありがとうございます。

    ●十傳より→ティンカーベルは、私にも懐かしい店なのでありました。