2014
12.12

遠ざかるほどに記憶が鮮やかなコントラストをはなつ想い出があるものであります。

画像は城崎ですが、この前に但馬に寄りました。
ちいさな城下町であります。
その但馬のスーパーに立ち寄ったのでございます。

私メは、旅行先のスーパーに立ち寄る習癖がございますです。
そこで、ポケットウィスキーを購入し、店の外で「さて、どーするべ」と佇んでいたところ、さきほどレジをしてくれたお女性が出てきましたです。

お昼休みなもので…なんてことで、しかし、30代後半らしきお女性は、なんとなく人懐こく「観光ですか?」なんて聞いてくるのであります。
ちょっと小太りの、そう、現在の、浜崎あゆみっぽく肉づきがふくよかで、一本だけ汚れた差し歯で笑うのでありました。

「茶でも飲みますか?」
と私メが誘いましたら、あたふたと慌てて顔を赤らめましたから、
「いやいや、そうじゃなく」
と自販機にコインを入れてジョージアを取り出しプルをあけて、「キライですか?」なんて差し出したのでありました。

「神奈川まで何時間でしょうか?」
突拍子もない問いかけをジョージアを両手で温めつつ、繰り出してくるのでありました。
「さーてねぇ」
「8時間でしょうか」
なおも汚れた差し歯をみせつつ問うのであります。妙な真剣さでありました。

私メもジョージアを自販機から取り出し、会話もあいまいに別れました。

そして、あらかじめさだめていた「ここだ」という地点に滞在しつつ、「もしも」なんて考えました。
「私メと行こう、いますぐに」
とスーパーのコスチュームのまま、彼女を連れ去ったら…と。

但馬はちいさな城下町であります。
楽しいことは何もなさそうであります。
彼女のご亭主はきっと役場かどこかで勤め、中学生と小学生の子供がいるはずであります。

「8時間で神奈川に行けるんですね」
差し歯の彼女は、そのとき遠い何かが開いたのかもしれません。

4分間の恋だったような気がいたしますです。
妄想のなかで、私メは自販機に彼女の背中を押しつけ、妙に縦筋の多い唇を吸っているのでありました。
「連れてって!」
むろんこれも妄想であります。

遠ざかるほどに鮮烈になる記憶。

ふたたび、頭の中で、冬の釧路の木賃宿の窓の外の吹雪が、動き始めるのでありました。

  1. フッとした所で、名前も知らない相手にホンノわずかな時間
    心を奪われる時がありますね。
    立ち寄ったコンビニで、先に店に入った職人らしき男性が
    振り返らずないまま 私が店内に入るまで開いたドアを手で支えてくれた時
    恋心ではないのでしょうが、なんとも甘く切ないものが込み上げてきました。
    旅先で、その女性を心の中で抱いた先生
    人肌が恋しくなるような この風景が尚更そうさせたのかもしれませんね。

      ●十傳より→恋は虚構のうちが華かもしれませんですしね。

  2. 不思議ですが、三島由紀夫さんの「音楽」という本を思い出しました。なぜでしょうか…
    小野先生の文章も、まるで音楽のように、心地良く官能が走ります。

    ●十傳より→不感症のお女性が官能に目覚める、それを音楽と表現した、三島由紀夫のカウンセラー小説の傑作でありますですね。

  3. いつかわたしも連れ去って下さいね。待ってまーす^_^ 先生、わたしいつでもどこでも、孤立するんですけど、いけない人間なんでしょうか?とにかく、アウト オブ カーストです。とくに女性からが激しいです。濡れ衣を着せられたり、変な噂を流されたり。母親は、わたしが自分の姑に似ているせいか、昔から色々酷いですね。自分がどこにもいない感覚だし、自分らしく生きようとしても妨害がはいります。わたしが、本当に自分の人生を生きたのは、一週間だけです。気に入った男は、既婚者でしたが一週間楽しかったです。わたしの、わたしだけの人生でした!

    ●十傳より→運命の七日間ってワケでありますですね。イイ女は同性から憎まれる宿命なのでありますですよ。オンナは相手にしない態度に徹すればイイのであります。

  4. 先生、優しいですね。ありがとうございます。

    ●十傳より→本能的にイイ女を嗅ぎだすのでありますです。