10.04
(仮稼働中)
「お兄ちゃんに見せたいトンネルがある」
妹に誘われて、雨天の中、遠野へと向かったのは先週でした。
先週と記したのには何の意味もございません。
「この先に白いトンネルがある」
しかし、この先のトンネルは白くもなく、普通のトンネルでありました。
古いトンネルでして、ヘッドライトの光が暗さに座れ視界は不良ですが、そのくらいのトンネルならいくらでもありますです。
「おっかなぐねぇか?」
「ひとつも」と答える私メに、妹は「鈍くなったんでねぇのっか」と皮肉を返してきました。
恐いのは、帰宅してからだったのです。
私メの家に入るには、3つの鍵が必要であります。
まず、門の鍵。つぎにシャッターの鍵。そして玄関の鍵。
それぞれ色が違います。
スペアキイは妹に預けていまして、私メが関東に滞在しているとき、妹が自由に家の中に入れるためであります。
その妹が、「開かない」と電動のキイのボタンを何度も押しているのであります。
それは白い鍵。門を開けるには黒い鍵であります。
私が指摘しましても、「いや白い鍵だ」と譲りません。
なので私メが黒い鍵のボタンを押すと、門はゆるゆると上がりました。
茫然自失の妹。
私メも一種の不気味さを憶えていました。
「ボケたべか?」と。
トンネルのせいなんだ、と慰めはいたしました。
友達付き合いも皆無。
しかし、これは易者にとってじつは大切な立ち位置ではないかと思ったりするのであります。
占いの相談で、「そんなことを喋って良いのか?」とハラハラすることがございます。
自身の不倫とか、犯罪とか、人には言えないことを初対面の私メに相談するのであります。
私メを信用してくださるのは、それは有難い事ですが、もしも私メが、その道の人間ならば、恐喝の材料ともなりかねません。
恐喝とはいかないまでも、占い師同士で「こんな相談があった」などの会話を良く耳にしたものであります。「もしか40代の二重法令線のことじゃない?」「名前は…」
易者には、やはり守秘義務がございます。
相談者について、その中身を語った瞬間に、易者の資格はございません。
とは言っても、同業者には言いたいもの。
その点、友達関係が皆無、誘いにも応じませんから、口から漏れる心配はございません。
喋る相手がいないのであります。
でも、そうすると体内に毒素みたいなものが溜まりますから、月一でモリオカの屋敷に閉じこもるのであります。
今後も仲間は不要。
話の合う人もおりません。人に会うのが面倒で億劫でバカバカしくて。
同級生とたまに会っても1時間も耐えられず「帰(け)るべ、帰るべ」と飽き飽きする始末。
しかし易者としての最低の資格は健在でございますです。