2023
09.23

昨日、妹が残した言葉を反芻しながら、墓参りに行くのでありました。
「ノッチちゃんには気を付けた方がいいよ」
ノッチちゃんというのは妹の同級生であります。
妹にお金を貸してくれと頼んだそうなのでありました。
「んだから」
とやや間をおき、
「そっちにも連絡がいぐごったよ」
そっちってオレにか?と言いましたら、なにトボけて、わたしの友達を総なめしたくせにと、運転中の私メにニヤリとしたのを気配で感じ取れました。

それには答えず、
「誕生日はいづだっけ?」
こんなとき、暦を見ずに、生年月日の干支を暗算できるのは便利でございます。
三年前に大運が切り替わり、それ以前に変なことをしていれば、かなりのダメージを瞬時に受ける運命であります。はんたいにそれ以前に普通に過ごしていれば被害は最小で済むことになります。
「当たり~」

ノッチちゃんの蛇のよーな目のぬめりが記憶から浮上しました。
妹の部屋で、ちょっとオイタをした10代。
「ざわざわする」
階段をのぼってくる妹の足音でくちびるを離しましたです。

いくら貸したのかと聞いたら、妹は、「やっと取り返したのさ」。
「30万か?」
「当たり~。なして分かるの」。私メが易者だということを忘れていたみたいであります。

「お兄ちゃんは、変なところで気前がいいんだおん。ホントに気を付けでよ」
「まずまず」

ヒリヒリして歩けないというノッチちゃんに、すこし苛立ちながら明け方の渋谷の道玄坂を下ったのは20代のはじめ。秋だったかな。

とつぜんに電話があったのは、本当に結婚していいのか迷い、それまでの男たちに連絡しては上京し恋の巡礼をしていた彼女が30歳のときでした。たしか赤坂のホテルに宿泊していたのでした。
「上手くなったねぇ」と感心したら、「ふふふ」と目をぬめらせて見上げた、ぞっとする妖気。
帰り際、剥き出しのお尻を二度ほどペンペンしたことを憶えております。

最後は亡父の葬式あたりでしたか…。20前であります。参列者でした、なんとなく誘われ、バーでいっしょに飲んでいるうちに。老母所有の貸家の鍵をポケットに預かっておりました。
空き家の埃臭い小部屋で、畳の目を爪でかきむしってのたうっていたノッチちゃん。鎖骨から乳房の谷間を流れる汗がこぼれていました。畳に手を付き荒い息をしながら、こんなに汗かいてしまって。もうおなかいっぱい。それでも痙攣がやまない彼女のわずかに皺がたたまれた目元の奥から、ぬめった、あの白目。

妹は、私メの心を読んだのか「もうシワシワの歯っ欠けお婆ちゃんだっけよ、おととし万引きしてつかまってホテルでの掃除夫もクビ。すっかり落ちぶれてだっけ、家庭崩壊。子供にも弟さんにも見捨てられ、家も売って、はぁ人生終わってらっけ」とニヤリの気配。

妹を降ろし、一人のクルマの中で、運命を痛感いたしました。
四柱推命を知らずに生きていれば、最悪の道を選ぶことになると教えてくれた兄弟子の言葉も。
墓石たちの下には死者たちのそれぞれの運命が。
なんだか、無性に叫びたくなりましたです。