08.19
別宅の階下に長いひさしを付けるよう工務店に依頼して正解でありました。
「日差しが遮られますが…」
工務店の意見をおしのけ、基準より90センチほど長めにしてもらったのであります。
余計な夜空とかがカットされたぶんだけ、庭が広がって見えるのであります。
雨の日でも、雨を楽しめるのであります。きっと雪の日も。
本当はシャレたベンチを置きたいのですが、いまのところ、ダボシャツオッサンの夕涼み用のヤツ。
しかし、ウィスキーのグラスを片手に、暗い庭を眺めるのは格別であります。
お女性と遠距離電話をしてもイイかもであります。むろんエロ話限定。
先月、オバケのご帰還を感じてから、別居に魂が入ったみたいで、一人でいてシックリくるようになりましたです。
ベンチに座って正面の庭の奥は、亡父が血を吐いて倒れた逝去のスポット。春の昼下がりに、午前中のうちに集めた木の葉を運ぼうと、一輪車のタイヤに空気入れで空気を入れた刹那、食道の動脈が破れたのでありました。ミミズのように這って陽だまりに出て、満開の梅の花を仰いだ姿勢が、この世の最後の姿。一生の完成品となったのであります。
私メはどのよーにしてくたばるのか。
受講生のお一人に、四柱推命卒論科の最後の日でしたか、
「長生きしてください」
かつて、同じ言葉で、私メも師匠をいたわった記憶がございます。
そーいう年齢か…。
素直に認めるのであります。
亡父だけでなく、死んだ祖父や祖母ら、亡き親戚たちが、笑顔で庭の向こうから手招いてくれはしないかと、暗い庭をのぞき込んでいるのであります。
そしてそれは、ひどく淫らな妄想へとなびくのであります。
お女性のふくよかな二の腕や、火照った頬を冷ましてくれるお尻の感触や、芋虫のような足の指のふくらみとか、
「ぶってください」
濡れた肉声までもが、夏の終わりの虫たちの切ない泣き声から、なびいて蘇るのであります。
死の遺伝子からの誘いと、それとは真逆の、生への執念が、妄想をかき立てているのかと思っておりましたが、本当はそーではなく、じつは、
「死ぬことは快楽の究極ではあるまいか」
帰らぬ人々は、だからこそ帰らぬのではないか。
暗い庭は、いつまでもいつまでも暗闇につつまれているのでありました。