2022
03.26

パンドラの箱には、疫病や戦争など、この世の不幸という不幸が詰め込まれているそーであります。

そして、最後に詰め込まれているのは「期待」。「希望」と解釈してもイイのであります。

この世の真実を語る寓話であります。
私メは、何も期待しない。希望も抱かない。
これに徹しておりました。いや、徹していたはずでありました。

しかし、モリオカの、ジェンダーの蘭丸さまが勤務していたコンビニの前を通りかかるときは、
「もしや…」
一縷の望み、そーです、期待してしまうのでございます。希望を抱かずにはおられなくなるのでございます。
「また店員として戻っているのではないか。よもや戻っていなくても、客として訪れているのではないか」と。

ですから、店内でお女性の影が動くと、つい目を凝らしてしまうのでございます。
貧弱な身体を店員服につつんだ蘭丸さまの、その店員服の首元のボタンからゆっくりと外す日が、きっと来るものと信じていたのであります。

「わたし痩せているから」
いいんだよ、いいんだ、そんなこと。
自分の冷え切った手を吐息ですこしでも温め、蘭丸の浮き出た肋骨にちんまりと赤く縮こまった乳首を、手のひらの金星丘から水星丘までザラリとさするのが夢でした。
すると腰のあたりに、つくしんぼうのよーなペニスが固くとがって感じられたでありましょう。指を這わせ、その先端を催眠術師が指で宙に丸く円を描くように、ゆっくりとやさしくいたぶったことでありましょう。

その夢は、期待は、希望は、もろくも崩れ去ったのてあります。

が、私メでは店内を一瞬間だけ盗み見たと思ったのでしたが、その凝視がよほど強かったのでしょーか。
あの若造の店員。私メが、蘭丸さまのレジにいくと決まって、「あとは僕がするから」と邪魔をする、あの男店員犬千代が、店の奥から、こちらに薄笑いを浮かべているのでありました。
「おのれ、犬千代!」

あまりの屈辱と、自己嫌悪を隠すため、
「犬千代を殺してやる」
店の裏側にまわり、たとえばスコップなどの凶器をさがしたのであります。

そこで目にしたのは、
ースタッフ募集中ーと記した張り紙でございました。

…もう、いないのだ。どこをさがしても無駄なのだ。
空を仰ぎましたら、白鳥が群れをなして北へと帰っていくところでありました。

心の中で、声の限り、蘭丸の名を連呼したのでございます。