10.19
寒風の吹きぬける……まではいきませんが、冷たい風の吹く、ここは横須賀であります。
そんなことをする時間があるなら、原稿を少しでも早くアップして欲しいといわれそうでありますが、ふいに、横須賀までドライブしたくなり、とおもったらガレージのシャッターから飛び出していたのであります。
自宅から横須賀まで30キロほど。横須賀道路を使えば、一区間で軍港を見下ろすことができます。
が、目的があってのドライブではございませんから、とりあえず、横須賀らしい店に入ったのであります。
こんなメニューがございました。
「なぬぅ?」
豚の惑星語で「TSUNANI」と店名が記されておるのでありました。「ツナミ=津波」ではありませんか。
おのれ、どこまで猿の惑星を愚弄するのか。
こういう店が存在していていいものか。
私メは許しても、他の猿の惑星の住民は許しはしないだろう。
…いや、そうでもないか。
なんでも、この店はネイビーバーガーの元祖とか。
そんなことはどーでもいい。
頭のなかで炸裂するものがございました。釜石の津波の惨状がひろがったのであります。
私メは、切腹するつもりで、別のモノを注文したのでありました。
海軍カレーであります。
カレーであります。
食った者を不運に陥れると、決めつけている、運勢の毒薬、幸運の敵、恋愛運も金運も壊滅させる、その名はカレー。
津波の文字を読んで、被災者に申し訳なく思ったのかどうかは、自分でもその心理はよめませぬ。自滅的な行為をしなければならぬという、心理の奥にねむる古い時代精神が目覚めたとしか思えないのであります。
一口喰いました。
うーむ。
美味いのであります。
海軍カレーは、牛乳とサラダがつかなければ海軍カレーはなりませぬ。さらに、具は、じゃがいも、ニンジン、牛肉が入っていることが海軍カレーの条件なのであります。辛くてはなりません。甘さの中に濃厚なうまみを感じられてこそ、正真正銘の横須賀名物、海軍カレーでございます。
たしかに、TSUNAMIは海軍カレーを出す店なのでありました。
店内の、大型テレビは、豚の惑星の兵隊たちの訓練の模様が映されているのでございました。両手両足を縛られたままプールに落とされて、そこから脱出する訓練とかであります。
唸りました。
豚もさるものであります。
これでは猿の惑星に勝ち目はない……。
さて、カレーの悪しき効果は自宅に着いた途端にありましてございます。
それは何かには、あえて触れませんが(藻屑等ではございませんです)、やはりカレーは良くない。精神的にもカッカするのでございます。
津波の強い引き波に、車ごと呑まれていったという一人の友人を思い出し、せめて、車の上で両手をあげ、大海原に悠然とむかっていったというように、話を作り替えさせてほしいと願ったりするのでありました。
いまだ、息も屁も、カレー臭いのであります。