2019
07.24

別れてから、一人であるく街は、寒い解放感で、悪くはありませんです。

街をブラついていると、
「ああ、ここは…」
時間を飛び越え、まだ一緒にいたい愛着と、はやく自由になりたい軽い苛立ちの濃縮した気持ちがリアルに戻ってきたりいたします。

「もう帰りたいんでしょう」
お女性に片方の気持ちを図星され、あわてて別の気持ちの証拠として上腕を鷲掴み、「今夜も返したくないのに」言葉が社交辞令になっているなと気づき、しかし、「お茶、飲もっか」の試しの誘いを避けたいわけで、駅まで向かうのであります。

そして、ひとり。
思いっきり放屁してリラックスしたい衝動にかられるのでありました。
空気を震わせるほどのコントラバスのよーな屁を。

何年たつのだろう。
声も生年月日も会話もオッパイも覚えているのに、顔が消えているのであります。

あの時、歩きながら「ありがとう」メールが届き、果物屋のそばで、三行の文章に皮肉の裏があるのかどーかを検討し、気の利いた返事の言葉を探しているうちに城跡まで来てしまったのだなぁと思い出すのでした。

関係が腐れるまであと三か月たらずのことでした。

駅で、バス停で、カフェで、部屋のドアで。
サヨナラする場所はあんがい決まっておりますが、サヨナラした後の、自由な虚脱感は、意識して味わってみると、それはそれで恋愛の一つなのだと面白いのであります。

2019
07.23

モリオカの実家の納屋をぶっ壊し、仕事部屋を作ったのでありましたが、昨夜から、透明な温度のあるカタマリの存在に気付いたのでありました。

「戻って来たな」
姿のない実体に語りかけました。

納屋のガラクタ…たとえば女の子が横切る姿が映るという一面鏡や、祖母の入れ歯や、古い食器や、履物などをゴミに出したので、いっしょに霊魂も逃げてしまったかと思っていました。

しかし、どーやらそうではなかったよーでございます。

深夜、照明がまばたきしたかと思ったら、風鎮とよぶのでしょーか、掛け軸のおもりが、風もないのに、壁をコツーンと打つのであります。そして、またしばらくしてコツーン。

その直後に姿のない暖かな塊が、背中を、まるで巨乳のネェちゃんがこするように過ぎるのを感じたのでございます。

おお、とても嬉しい気持ちに近いーー安心感でもない、懐かしさでもない、幼児が巨木の梢をみつめているみたいな素直な大切な純粋なおももちなのであります。

老母に言うと、腰を抜かすので、黙っておりましたが、あきらかに新築に魂を迎えたな、と確信したのであります。

じつは、この離れには、老母にも隠している小部屋がございます。
そこに石を祀り、お水を捧げてきたところであります。
「また、草履を脱ぐような音を立てて教えてちょーだい。階段をのぼる音でもイイですし」

いつか、私メが死んでずっとしてから、またこの屋敷を解体する時があったとしたら、この秘密の小部屋を発見するだろうし、発見した者は驚くであろーなと、代々伝わって来た石を撫でるのでありました。

すると、
あの透明な温度が手のひらに感じられたのでありました。

2019
07.22

新しい愛人との再会なのであります。

日曜日の十傳スクールを終え、いさんで新幹線に乗り、実家のガレージを開けましたら、
「もう知らないから!」
と、放置していた愛人が、おりましたです。

まだ、かんぜんには使いこなしておりませんから、とても新鮮なのであります。

悦びを教えてあげなければなりませんが、その前に、丁寧に埃をはらってやったのでございます。

そしたらば、待っていたかのように雨。
ーーいつまで無駄なことをしているのだーー
天からの啓示の如き雨。

が、私メが雨好きであることを知らぬのか。
「死ぬまで、お女性を一人前に仕上げるのの、どこが無駄であろーか」
そーよ、とでも言うかのように、愛人はシャーションとワイパーをまつ毛のようにまばたきさせるのでございました。

はやく二人きりになろうよ。

にぎって、もっと、もっとつよく。

つまみをねじると、愛人はぶるぶると震えだし、だから私メは、女のギアをドライブに挿入するのでありました。