2012
07.11

仕事をしていましたら、窓辺にヤモリがやってきまして、
「もう、いいんじゃない、はやく遊ぼうよ」
などと囁きかけるのでありました。

湘南名物であります。
こいつが現れたということは、餌である蚊や蛾も発生しているわけであります。

喉元を震わせて、私メを誘惑するのでありました。

トカゲやヤモリがまじないに効果があるというのは、再生能力にたけているからでありましょう。
捕まえようとすると尾を切って逃れるのであります。そして、尾がふたたび生えるのであります。

が、それも限界がありまして、とっ捕まえてハサミで尾を切ったことがありましたが、ほとんどは死滅。
ちょっとだけ切った奴だけが生き残りました。

お女性をこちらに惹きつけるには、優しいだけではダメでありまして、多少の意地悪は必要であります。
ハートに揺さぶりをかけ、右と思わせておいて真上から意表をつくことが大事でありましょう。

か、やはり意地悪にも程度がございまして、ヤリすぎると嫌われるのでありますです。

トカゲと同様に、まじないに使うモノとしては、歯、爪、髪の毛、陰毛もそうでございます。
すべて再生能力のあるものばかりであります。
昔の人たちは、腕を切ってもダメなのに、髪の毛を切っても生えてくるということが不思議だったのかもしれません。

いやいや、今だって、どうして陰毛が剃っても、時間が経つと、ゴジャッと生えてくるのか、不思議といえば不思議。
でも「たまには手入れせず植え込みのようにして来いよ」と、その場で剃毛の楽しさに耽ろうと提案いたしますと、
「だめだよ。ここは永久脱毛してるから」
と、ちょびヒゲのように残された陰毛を示しつつ「ごめーん」などと甘えるお女性も存在するのでありますです。

「想い出にはかりひたってないで、遊ぼうよ」
とヤモリは私メを誘惑するのでございます。

手を伸ばして捕え、瓶詰めにして、シリカゲルを投入して乾燥させ、お守りにしたい欲望が、頭をもたげるのでありました。
いま考えているのは、二匹を捕え、双頭のトカゲのミイラを作成することなのであります。
鋼色の漆で仕上げ、口に真っ赤なバラの蕾のドライフラワーをくわえさせたら、彼らも喜ぶことでありましょう。
年々、住宅がふえ、蛇の巣も失われてしまっては、楽しみはトカゲかヤモリくらいしかないのであります。

「悪趣味ね」
と言われても、これは私メの夏の風物詩でございます。
「本当は、わたしをこうしたいんでしょう?」

とんでもありませぬ。
それよりも、ヤモリの丸焼をひそかに食わせたら、ほんとうに「惚れ薬」の効果があるかどうか確かめたい気持ちの方が強いのでございます。
…効果があっては迷惑でありますが…。