2012
10.27

郷里のモリオカは、晩秋に季節がもどっておりました。
窓ガラスが曇り、冷気を感じさせるのであります。

すると、東京から過去へとモードが切り替わるのでありました。

が、その過去は実際には起こらなかった過去であったりいたします。
過去の再編成というのか、都合よく置き換わる部分があったりするのでしょう。

昨夜、高校時代につきあっていたお女性とお話をいたしました。
飲み屋のママになっているのでございますから、べつに密会でもなんでもございませぬ。
そして、付き合っていたといっても、恋愛的な付き合いではなく、それぞれに好きな相手がいましたから、それらを報告し合うというか、そういう関係なのでありました。

ところが、偶然に二人とも、同時に失恋したことがあり、「では海にでも行くか…」てなことになり、150キロほど離れた海岸に、列車で向かったのでございます。
だからといって、おセックスには至りませぬ。
季節外れの海では、労働者が作業をしておりまして、「よう、カップル!」とか、冷やかされましたけれど、二人ともそれぞれの傷心を抱えていたのでありました。手をつなぐこともなく何事もなく帰路についたのでございました。

…というのが、私メの記憶でございます。

が、おママが言うには、
「オノくんとキスしたよね」
なのであります。

しかし、どんなに記憶をひっくり返しても、そういうことはなかったのであります。
絶対にない。
ない。
しなかったはず…。

でも、「したよシタシタ」と言い張るのであります。

帰り際、モリオカ駅で「サレタ」と言い張ってゆずりませぬ。
命式中に、偏財も正財もない私メですから、そのような公の場所でキスなど、とんでもないことなのであります。

それなのに「シタシタ、サレタ」とカンパられると、シタようにも思えてくるのであります。

過去なのですから、どーでもいいといえば、どーでもいいのでありますが、スッキリと落ち付かず、ヘンな酔い方をしたのでございます。

だからといって、スケベ中年のように
「じゃあ、いまシヨウか」
とは、なりませぬ。
スルならば、店の若い子を所望するのでありました。

キスの真似をしたのかもしれない。
とタクシーのなかで自分を納得させたのでありました。

記憶の相違とは不思議なモノであります。
恋人同士でも、おたがいに別々の記憶があるのかもしれませぬ。

いいえ、記憶となる前の記憶、つまり、付き合っている時から、お互いは別々の宇宙に住んでいるとも思えるのでございまです。