2011
05.28

震災で海辺の町が全滅してしまったので、ホヤは食えないだろうと思っていました。

が、いつもより四倍の値段で売っていたのであります。
迷うことなく二個買い求めました。

画像がホヤを剥いて、一口サイズに切ったものであります。
口に広がる独特の甘い苦さ。

三陸産ではなく青森産のためか、やや大味でございますが、贅沢は言っていられません。

白ワインを傾けつつ、ちょぴりずつ口に運ぶのでありました。

ホヤは、女の朝の吐息のような匂いなのであります。
ゆうべ愛し合った名残りがただよう口臭。
さいしょは顔をそむけたい匂いですが、嗅いでいるうちに引きこまれてしまう、薔薇のエッセンスが奥にただよっている匂いであります。
「イヤな人ね」
女は口の匂いを気にしながら、嗅ぎまわる私から逃れようといたします。
仕方なく髪の芯とか、耳の後ろに鼻を押し付けるのであります。
「ホヤのような匂いだね」
うなじに鼻をつけたまま、スプーンのように女の背中にカラダをかさね、脇の下からおっぱいに腕をまわして、そうやって朝のしあわせに耽るのでございます。

「あんや、なに考えでるえん?」
老母の声に妄想がやぶられ、
「ちょっと出てくる」
と歓楽街へと足をすこばせるのでした。

指を嗅ぐと、まだホヤの匂いが染みついているのでありました。