2014
01.04

鉄砲通りの店でフランスパンを買っておりましたら、懐かしいお女性からメールがございました。
「最近全然ですね」という文字から始まり、「年始に盛岡に来ないのですか?」の言葉で結ばれておりました。

昨年、乳がんで乳房を全摘し、再建したモリオカに住む飲み友達からでありました。

天然オッパイ最後の男になるはずでありましたが、手術の日程の都合で、それがならず、「じゃあ、最初の男にしてあげる」と約したお女性でございます。

手術は都内でしたから、退院してから2月の風の強い日に高田馬場で会ったのであります。考えれば、それからずっと顔を合わせてはおりませぬ。
「まだ感覚がないの」
彼女はオレンジ色のセーターの上からオッパイを無造作に掴んでみせたのでありました。周囲の男たちはギョッとしたように我々に目を当てたのを覚えております。
「ぜんぜん?」
「まったく…」

電話でいくどか連絡は取り合いました。

「見せろよ」
「見せるから、はやく来てよ」

が、なぜかそれっきり。
乳房を全摘する不安にかられ泣き出しそうな表情の彼女に対して、私メは激しい欲情を覚えていてのでありました。ガンが移ってもいいから、そのオッパイを吸いたいという欲情であります。
ところが手術が成功し、彼女の明るい声を聞いてしまったら、不思議なことに欲情がしぼみ、酒を飲み交わすという基本的な間柄に戻ることすら忘れておりました。

忘れていたのではなく、モリオカに戻った時も、別の相手と酒を飲みつつ、意識の半分は彼女のことを考えていたのは明らかであります。

しやわせの国に帰ってしまったら、そこで役目は終わったと私メはどこかで思っていたのでありましょう。
美しいバストより、ガンに蝕まれたオッパイを、私メも共有してみたかったというのは大げさかもしれませぬが、しかし、それに近い感情があったのは本当のことであります。
ふしやわせな何かこそ濁情になりえるエッセンスかもしれませぬ。

「モリオカに戻ったら真っ先に連絡するよ」
とメールを返しました。
オッパイの話題に触れることは出来ませんでしたのであります。