2021
04.15

賞味期限がゆうに半年は切れている、おでんを目障りだったので食べました。
とても美味しいのでありました。

ある年齢以下の人たちは、賞味期限を激しく気にしますが、私メは、そういう年齢をはるかに超えておりますから、賞味期限をほとんど気にいたしませんです。
漬物などは、むしろ賞味期限切れで乳酸が浮いている酸っぱいヤツが好みであります。
犬のよーに臭いによって識別いたしますです。

本日、4月15日は、銀行や郵便局が込み合いました。
年金支給の日だからです。
だれが見ても賞味期限切れの老人たちがATAに並んでいるのでありました。

一人の男を思い出します。
私メにとっての救世主的存在。
腕利きの編集長で、私メよりいくつか年下。
彼を囲んでフリーの編集者や著者たちが、月一の割合で飲み会を開くのが習わしでありました。まさにお殿様。
彼が48歳の時、大ピンチが訪れました。
ミスを連続して社内出向になったのであります。
毎週の朝礼で社長に名指しでコキおろされ、
「辞めよーと思っているのだが」
飲み屋に誘われ、そういう相談ともつかぬ相談を受けました。
日干甲で、社会運である月干が庚。
四柱推命の通り、かならず仕事上で危機に立たされる運命であります。しかも大凶と大運が切り替わる齢。

「辞めずに耐え忍ぶ方がイイのでは」
辞職に反対いたしましたが、
「前の編集部のヤツらも全員が辞めると言っている」

結果的に辞めたのは彼一人。そーいうものです。

そこから地獄がはじまったのであります。
当初は、お抱えの著者たちも付き合いで、執筆してくれますが、だんだんと二流、三流の出版社からしか出なくなり、部数も制限されるために。次第に離れていきます。

最後は私メだけ。
そして用事もないのに酒に誘われるのであります。
当然、支払いは私メ。何件も梯子をしますから大変なのでありました。恩人でしたから致しかたないのであります。
そのうち健康も害し、肺気腫を併発し、それなのに酒タバコを狂ったようにたしなむのでありました。
自費出版の会社の創設にひと口乗らないかと、誘われたとき、「末期症状だ」と思いました。
「夢だよ、それは」
否定する私メの頭を、彼はこずき、
「金、あるんだろう」
貧乏グループ特有の匂いが漂っておりました。

彼との亀裂は、再三に酒に誘われたときに、
「こんどは割り勘で」
私メが強く出ましたら、
「なら、いいよ」
これで連絡が途切れました。

賞味期限切れの男を見てしまった思いでございました。
編集者としての実力はあるのに、旬が過ぎてしまっていたのであります。

辛い思い出であります。

おでんを食い終えた、自分の手をじっと見るのでありました。