2015
02.17

事務所から徒歩で20分。夕闇降りる音羽町の出版社へと向かったのであります。
27階だったかのレセプションルームへ。

震災の年に来たきりだったかと、窓に広がる都会のあかりを眺めて思い出すのでありました。

こういう場所は性に合わないようでして、はやく酔っ払わないといけないと感じ、ワインを胃袋に何杯か流し込むのであります。

うつくしい編集者たちが、いろいろと食べ物を薦めたり、わざわざ見繕ってお皿に盛って来てくれたりいたします。

局の偉いお方が何か喋っておりますが、聞こえませぬ。

そのうちにお世話になっている編集の方々がいらして、「これはこれは」と御挨拶をかわすのであります。

が、易者である私メは、やはり異邦人として扱われ、なんとなく窮屈なのであります。

食うだけ食ったら帰るつもりでいたので、それは正解なのであります。

と、ある男を見つけました。
男も「おや?」と私メを見ましたけれど「誰だったかな?」という表情のまま人影に消えたのであります。
「ここに勤め先を見つけたのか…」
私メは、人を見る時に、ふと上目づかいをするその男の仕草が変わっていないことになんとなく安心したのでありました。
もう20年前のことであります。
「ダメ男と別れたいのよ」
と、同棲している年下の男のことで相談を受けたことがございます。
飲み屋のお女性でありました。
「いまにこの店に来るわ」
と言いおらわぬうちに扉が開き、姿を見せたのがこの男でありました。
まだ学生でありました。
我々は会話もしたのでありました。

私メは帰ることに決め、レセプションルームを静かに後にしたのでございます。

ダメ男も背広を着ると様になるものではないか、と来た道をもどりつつ、ニヤニヤしてしまうのでした。

「明日は雨だってよう」
「こんなに星空なのに」
と通り過ぎる人々の声が聞こえます。

食い逃げした胃袋がちと消化不良ぎみでございます。

 

2015
02.16

神楽坂の事務所に移転してから、この観葉樹をベランダに置きっぱなしにしていたのであります。

南向きの強い日差しをまともに受け、一時は枯れ絶えておりました。
ところが根元の日陰のところから再生しだし、今年もどーやら冬の寒さにも生き残ったようなのであります。

前の神田の事務所では部屋に置いていたら病気になったらしく樹液をカーペットにこぼして面倒な目にあったものでございます。
しかし放置しておりましたら病気もとこかに吹っ飛んで、へんに生き生きしているのであります。

可愛い子には旅を…と言われておりますが、別に観葉樹を可愛いと思ったわけではなく、完全に枯れたら捨てようと思っていただけの話であります。

この観葉樹はあるお女性の部屋にあったのであります。
購入した時は二メートルを超え、部屋の天井につくのではと案じられるほどの大木でございました。
「運が吸い取られるみたい」
というので私メが引き取ったという経緯がございます。

誕生日を憶えていたのですが、いつも思い出せず、とおく過ぎ去ってから「もういくつになったのか」と勘定することさえ億劫なのであります。
心配することはなかったってことだよな。

男特有のそういう気持ちはいつも裏切られるモノでして、お女性はイザとなればたくましく道を切り開くようであります。
今年の夏も観葉樹は苛烈な夏の日差しに晒される運命なのでございます。

2015
02.15

頂き物の鱈を鍋にして味わっていますと携帯がなります。

私メはいまだにガラケイと貶められている携帯を愛用しておりますんです。スマホを利用するほど忙しくはございませんから。

で、携帯に出ますと、
「おかげさまで…」
とご夫人のお声。明るい声色から「受かりましたか!」とこちらまで声が弾むのであります。

この季節、神経質になるのが受験生の合否。
断易でも難解なのが受験なのであります。
お頭脳の程度や試験の神様が微笑んでいるかどうかだけではなく、目指した学校から受け入れられているかなどの点に目を光らせつつ判断しなくてはなりません。
合格すると判断できても、それが第一志望の学校に合格できるかは別の話であります。

合格間違いなしというお子さんをお持ちのお方は占いには来ません。合格ラインすれすれの子供のお母さんという場合がほとんど。
出る卦も、やはり合格が微妙ということになるのであります。

私メは、念のために三回ほど卦を出すのでありますが、面白いことに、どの卦も似たような結果を告げるのであります。

「こうなったら奇門遁甲の獄神得奇を使うしかありませんな」
と最後の手段に打って出ることも多いのであります。

占いに来るということは合否の結果を知りたいのではなく、子供をどーしても合格させたいという一点にあるからであります。

さいわい、いまのところ合格の連絡が連続しているから胸を撫で下ろしておりますが、
「ダメでした……」
の電話があった時の対処も考えておかねばなりませぬ。

合否と同じように難しいのが恋愛占でしょうか。
基礎的には、六合卦は吉、六冲卦は凶だということになつてはおりますが、そのような単純な決め方ばかりではいけませぬ。

では財運占は簡単かといえば、そうとも言えませぬ。財運は多岐にわたっているからであります。
儲かるかどうかだけではなく、誰が足を引っ張っているか、取引は誰とするべきかとか色々と範囲が広いのであります。
とくに株式投資は曲者であります。
最初は的確に当たり、トントン拍子に儲かりますが、ある時からまったく当たらなくなるという特徴を秘めております。断易で当たるなら、苦労はしないだろうという問題ではなく、ギャンブルに断易を使用する時は、ある一定期間の休みが必要なようであります。競馬で毎レース断易を使うのではなく、ここぞという時に断易を使用することがポイントで、これこそがギャンブル占いの奥義と申せましょうか。

などなど語り過ぎましたが、ふむふむ、前回お話しした断易本の自主制作は、この調子だと上手くいきそうでございます。
それこそ狂気の名著に化けるかもでありますよ。

瞬く間にタラチリは食べ終えていたのでございました。