08.25
スーツを着用するのは、こんな法事の時ぐらいなのでございます。
それも白いワイシャツが見当たらず、青シャツに黒ネクタイ。
棺桶の窓から、バァしようといたしましたが、悪ふざけのし過ぎに、激しい顰蹙のあらしとなりそーでしたので、棺桶の蓋とのツーショットでおさめました。
はじめて人の死に直面したのは、小学校4年の時。
祖母を訪ねてきた来客が、会話の途中に崩れるよーにたおれて、それっきり。
すみっこで漢字のドリルをしていた少年の私メは、飛び上がりましたです。
「おずんつぁんを呼ばねば」
近所の80代の長老を無理やり呼んできましたです。
「脈がないでがんすなぁ」
と、おずんつぁん。
祖母は便所に入ったまま出てきませんでしたです。
それから、かかりつけの医者がきました。
タイヘンなのは、名前は知っているものの、どこに住んでいるのかが不明。
とりあえず、逆さ屏風を立て、布団をかぶせたのでした。
どーやって知りえたのか、深夜になって身内の方々がぞろぞろといらしたのでございます。
「はぁ、人はあっけなく死ぬもんだなぁ」
驚いたものであります。
そして、来客の死ぬ一部始終を家族に演じて見せたのでありました。
「こーやってね」
来客が祖母と談笑しながら、ふと膝元の糸くずでも拾うみたいにして横倒しに崩れ、最後に足を思いがけないところまでグンとのばしたまま動かなくなった、その一部始終をです。
すると横から迷信好きの叔母が、
「そーいえば、朝にカラスが二羽、家の瓦屋根の上を変な聲で鳴きながら旋回していたっけ」
などと言う始末。
その後の数年は、法事続きでして、また死んだ、今度は祖父だ、次は大叔父だ…だんだんと死に関して無感覚になってしまっていくのでありました。
「おらが死んだら…」
99歳まで生きた祖母が、毎日のよーに、まるで夢を語るよーに申しておりましたが、さーて、自分はどーなるのか。
遺体の額のあたりにショウジョウバエがまつわりついておりました。