2023
01.25

隠し戸があり、そこからまたクローゼットに似させたドアを開きますと、3階に通じる階段がございまして、その奥のドアの向こうに、夜の隠し部屋がございます。
その屋根裏部屋で、私メは一日の最後を、ウィスキーとともに過ごすのでございます。

「ああ、自分って排他的だなぁ」
その排他的に満足しつつ眠りにつくのでございます。

世の中は、積極的であれば良くって、開放的であれば良いという、不思議な常識が蔓延しております。
たしかに積極的でオープンな人は成功しているように見えます。
けれど、それは、その人の行動が目立つだけかもしれません。
では、消極的で閉鎖的な人はどーかというと、目立たないながら、やはり成功している人もずいぶんいるのであります。

なにをもって積極的か消極的か、開放的か閉鎖的かの基準はあいまいかもしれませんが、いきつくところは、自分の好みなのでございます。
好みでなければ、そういう型式に生まれついているのであります。

自分をマニュアル化して、消極的なのに、無理に積極的人間を演じる方法もございますが、そういう人はどこか不自然でございます。

いちばん楽な生き方が、「お金、健康、自由」を獲得する最短コースではないかと手前味噌に思っているのであります。
「お金、健康、自由」と記しますと、何億円も儲けないといけないみたいに感じますが、いえいえ、年収二百万円でも、健康と自由が釣り合っていればイイのであります。いきなり大儲けしよーと、Wワークをすると健康や自由を損なってしまいますです。
ゆっくりとお金、健康、自由の三角形の正三角形の面積を広げていけばイイのであります。

隠し部屋の天窓は、いま着雪し、室内は暗いのであります。
そこまでの排他は求めておらず、天窓を開けると夜空が見えなければ息がつまりますです。
無理に天窓を開けますと、雪がトサッと部屋にこぼれるのでございます。

2023
01.24

モリオカに戻りましたら、白い世界に埋もれておりました。

「先生亡くなったの知ってる?」
と、雪かきをしていましたら、50年前の級友から電話が。
みんなで集まらないかという誘いでありました。
「集まらない」
と言い捨て、ふたたび黙々と雪かきの作業。

降ったばかりの雪でしたが、それでもダメージが腰に。その腰をさすりつつ、老母のために肥料を作らねばならないのでした。
「なにかウメの食いてぇ」
しかし冷蔵庫はほとんど空。

ありあわせのモノと、届いていたカニの身をほぐしまして、できたのが、この崩れ八宝菜なのでした。
隠れた銘酒である「鷲の尾」(県外不出)の封をポンとあけまして
ぐぴっ!
寒い日は、これに限るのであります。

実家は冷暖房完備、最新の断熱材を贅沢に採用しておりますから、夏は涼しく、冬は暖かい……はずなのでありますが、
「ううっ、寒い~」
老母は明治時代の親に育てられたせいか、それともドケチなのか、暖房を入れておりません。
自室で電気こたつに肩までかぶって震えているのであります。
ですから、断熱材が逆に効きまして、冷気をキープしているのでございます。

家全体が暖まるまで三日から五日は要するのであります。
「ヒートショックは温度差が原因だえんちぇ」
老母の自説をもってすれば、家が常に一定温度であれば、ヒートショックはおきないというわけであります。
「んだがら、これでイイのさ」
「勝手にすればイイ」

せっかくの崩れ八宝菜はたちまちに冷めてしまうのでございました。

2023
01.23

「オノくん、昨日ね、亡くなったのよ」
の電話が、大恩人の奥様からございました。

いずれは来る。
覚悟はしておりました。

「とても残念です」
電話を置きましたが、実感は湧きません。

誰しも、自分の運勢に大きな影響を与えてくれた人がいるはずです。
その人がいなければ、まったく別の人生を歩んでしただろう、鍵となる人が。

最後に会ったのは、5年前。
夏でした。
たいへんな変わり者で、夏なのにクーラーをかけない。
すべてに反対する。
ちょっとしたことで臍を曲げる。
はげしく扱いに手こずるお方でありましたが、なぜか私メを気に入ってくれたのであります。

が、5年前にマスカットを手土産にお邪魔したのですが、「ちょうど食いたかった」と言ったまま、TVの大相撲に見入ってばかりいました。
そういうことになるだろうと予測しておりまして、1時間後にタクシーを呼んでおりました。
運転者がチャイムをならしましたので
「もうお暇いたします」
と靴を履き、外に出たところで、そのお方はスリッパをつっかけて追ってきました。
「こんどいつ来る?」
はじめて親しい態度になってくれたのでした。

その後、いささかボケだした大恩人と電話で話すことはありまして、
「オノくんのことだけは覚えているよ」

死んだのか…。
奥さんは、「葬式には来なくていいからね。あとはお中元もお歳暮も、もは要らないからね」とサッパリした声でありました。

オノ君は、オノ君がいきたいと思う生き方をすればいい。そのために力は惜しまないよ。

そしてその通りにしてくれたのであります。
「せんせい」
と曇天に呼びかけると迫ってくるものがございます。
お世話になったけれど、私メは私メの生きたいとおもう生き方をしております。それは先生が思っている方向とは真逆でしたが。