2023
01.13

私メの使用するジムは、老人と老婆がほとんどであります。
齢70代後半から80代の老いぼれが九割。
亀のよーなお方もいるし、河童のおばあさんもいれば、海坊主も。妖怪の棲家と申してもけっして言い過ぎではございません。
お女性を通り越し、人間も通り越し、角質して化石化したお方ばかり。

いつしか、
「あの老婆は?」
まぼろしのよーに来なくなるお方もおり、ご冥福をお祈りするのでございます。

ところで、さいきん、懸垂とか腹筋運動をしておりますと、みょうに、ぬるい視線を感じるのでございます。
なんとなく目をやると、たったいま見ていたな、あわてて視線をもどした感のお女性が。そう、二割ほどお女性を残しているお女性がいるのであります。
50代後半でありましょーか。年寄りの中では比較的お若いのであります。
六本木をポンロギとかギロッポンと呼んでいたイケイケ世代でございましょー。
アッシー、メッシーとか顎で指図していた肩パットの世代でございます。

八割がた人間化した、そのお女性が、私メを意識したよーに、床マットのうえにあおむけになり、「ほーれ、ほーれ見ろ、ほーれ見ろ」とばかりに胸を反らすよーな運動をしておるのでありました。腹の脂肪を燃焼しつくしたスタイルが、むしろ痛ましいのでございます。

しかも、移動する際に、私メの近くを横切るのでありますが、
「…女の匂いか」
それと分かる体臭を漂わせるよーになっているのでありました。微かに死臭の混じった…。

よじった胸のかたまりに官能したとでもいうよーに、ウィンクでもサービスして差し上げればイイのでしょーけれど、マジになられても困りますです。
誤解なさらぬよーに断っておきますが、若ければイイというのでは決してありません。
ひねった横っ腹にちりめん皺がたたまれていたとしても、それをとやかく指摘するのではございません。
心だけが瑞々しいのが不気味なのであります。
当時のままの心が怖いのであります。
身も心も人間化してしまっておれば、「がんばっておいでですね」と自然に接することが可能であります。
でもまだ、そこまで角質化していない…。
さいごの色を残し、色を求めている。
難しいのであります。

さて、画像であります。
建物が取り壊され、一面の枯野。

みずみずしかった夏草が、あっというまに枯草に。

占いを始めた時、教室に憧れのお女性がおりました。
15歳ほど年上。
老美人と名付けましたです。

そして、20年ほどたって、やっと…。
けれど、老美人は言いましたです。
「ムッシュー、わたし本気になるわよ」
その言葉に霧に包まれた神秘に光が射し蒼茫たる枯野がひろがり、気持ちはみるみる萎えていったのであります。
忘れませんです。
お茶の水のホームの階段を上って去っていく老美人の後ろ姿を。
スリットの入ったスカートからシミーズがのぞいていた、あの最後の後ろ姿を、40代の私メは見送っていたのでありました。
「遅かったのか…」
時に負けたのでありました。

お女性たちよ、時は砂のよーに流れますですよ。
時は、美しい肉体だけでなく心も、恋も愛も、すべてを枯れ果てさせるのであります。
なにとぞ永遠であってくださいまし。