2023
01.09

春になると、この家の道に面した桜木がいっせいに薄い桃色の花を咲かせるのでした。

桜木のわきは塀になっていて、塀の向こうはバス停。
そのバス停のベンチに腰掛けながらワイングラスを片手に、夜桜を楽しむのが、なんとはなしの楽しみになっておりました。
しかし、ワインを何杯かつぐうちに、パトカーが嫌みのように巡回するのです。

おそらく、桜木の主人が通報したものと考えられるのでありました。

得体の取れないヤツが酒を飲むのがけしからんのか、いやいや、そーではない。
自分の家の見事に咲き誇る桜の花を他人に鑑賞されることに、激しい憤りを覚えるのでございましょー。
私メだって、郷里の池に中国人に一歩でも踏み汚されることに、本気の殺意を、歯ぎしりするほどの嫌悪を感じるのでありますから。日本人の目的はお金だけでありますから、水際でお金を奪い、あとは東シナ海に捨てればイイのであります。

と、まぁ、つい興奮しましたが、おそらく、この家の主人が亡くなったのでしょーか。
桜木は無残に切られ、そして立て壊す旨のお知らせが貼られておりましたです。

1月9日と記されておりました。
本日でございます。
やがて作業員とか重機があつまり、この家は永劫に消え去るのです。

人気の絶えた家は、侘しく、思い出に蓋をした如しであります。

べつに桜が好きだというのではございませんが、今日は桜木に同情してみたくなっただけでございます。
ちらと、ワンルームマンションに住んでいたお女性が、記憶の底から気泡のように浮かんできました。
いえいえ、30年の昔のことでございますから、もう住んでいるかどーか。
いっしょにワインを傾けていたら、どういうことか桜の花びらがいちまいグラスに舞い落ちたのであります。

あのころ愛だと信じていたものが、ほんとうに愛だったか疑わしくなるのも年月のいたずらでしょうか。

すべては滅んでいくのでございます。