06.14
神保町にちっぽけなロシア料理をいとなんでいる店がございます。
そこでおランチをしたのでありました。
ロシアのオバちゃんが薄い笑顔で迎えてくれ、「二階へ」と頭上を指差しましたから、激しく急こう配な階段をのぼりましてございます。
すると、店員が叱られているところでありました。
「すみませんと、なぜ言えないのだ!」
と、これは日系ロシア人…いやいや純日本人でありましょう。
「返事はどうした!」
「はぁ」
てなかんじで、客に気づくと、ばつの悪い笑いで誤魔化して、奥へ。
店員の兄ちゃんが、残されて「らっしゃいませ」。
それで、ロシア風カツレツを注文。
9度のロシアビールも頼みました。
この兄ちゃん、叱られるのも当然で、要領を得ないのであります。
あぶなくビールをこぼすところ。
「あっ」
というだけで、やはり「スミマセン」のいえないタチらしいのでした。
おとなしそうですが、これは、かなりのツワモノかもしれませぬ。
こういうのは人間関係が原因で出世はできないでありましょう。
お女性でも、よくいますです。
イイ人風なのですが、言う言葉がチクチクうるさいお女性が。
「オノさんは素敵ですね」と嬉しがらせておきながら「額が狭いところがいいですね。可愛いネコの額っていいますよね」と、ケンカを売るつもりなのか! てな調子のお女性がおりましたが、まさに似たタイプ兄ちゃんなのでありました。
世界三大スープの一つとかいうボルシチが運ばれてきました。
そこでも兄ちゃんは、あやうく皿を落とすところ。
こんどは「ああっ!」でありました。
おとなしいなら、おとなしさに徹しなければなりません。もみ手でニコニコ接待し、自分が悪くなくても「すみません」を連発。
アキンドの国の関西人は「すんません」の応酬ではありませぬか。
イイ人を装いつつ、チクッとした発言は、そこから嫌われるのであります。
毒舌したいならば、最初の雰囲気から純粋な毒舌家でなければならないのであります。
ユーモアのつもりの毒舌は、その人の純粋を濁す元凶であります。
兄ちゃんは、最後まで私メを楽しませ、思考に耽らせてくれたのでありました。
カツレツが付き、ああ、最初にはコールスローのような野菜がでました。そして最後にはデザート。
これで1000円しないのであります。
鎌倉ならば、2500円はぶんどられるでありましょう。しかも不味いくせに。
流れる曲はダークダックスのロシア民謡。
つい踊りたくなるのでこざいました。
目をつぶると冬の稚内のロシア料理店が浮かんでくるのであります。
「わたしと踊りましょう」
とロシア娘に誘われて、したたかに酔い、外に出ると5メートル先も見えない白い闇。吹雪でありました。
おロシアもいいなぁ……見知らぬ街に思いをはせて、お兄ちゃんに「ご馳走さま」と声をかけました。
「はは」と返されたのでございますです。