2017
02.10
02.10
雲が、さかさまの海のうねりの如く渦巻き出し、風を引き連れるのでありました。
耐えがたい睡魔に襲われるまま、その雲に目を奪われておりました。
「来るぞ、嵐が」
と、霰が屋根を叩きだし、次に物音を呑みこむような静けさが。
雪でありました。
「しまった、今日、神戸に行くべきであったかも…」
というほどの降りに、周囲はたちまち白くかすむのでございました。
バッグのポケットのジッパーを開き、明日の神戸行のチケットを、見たからとてどうするすべもないのに、外の雪降りと見比べるのでございました。
そーです。明日は神戸スクール、断易初等科なのでございます。
が、この雲は、一時的に雪を降らせているだけであることは、地平線にある雲の端が青みがかっておりますから、それと知れるのでございました。
古い洋画を楽しむのがお似合いの天候でございます。
ふたたびチケットを仕舞い…まったくの不意打ちのように郷里の老母の声が頭に蘇りました。
「まだ忘れていねようだね」
雪が降りだす直前の雲を観察する癖が、私メにあり、数年前の冬に、今で雲を眺めていたら、茶たくに湯呑を置いた老母の口からこぼれた言葉でありました。
肯定も否定もばからしく捨て置きましたが、その言葉が雲の渦から漏れたのでございましょう。
あんのじょう、雪は30分ほどであがり、午後の陽射しが戻るのでありました。が、それもつかの間、冬の雲は周囲を翳らせては、行きすぎる繰り返しをつづけるのでございます。
あたかも、どちらが幸福なのかを尋ねるように。不運と幸運は明確に分かれてはいないのだと暗示するかのように。
地下に、微発泡の赤ワインがあったな、たしか。