2017
02.20

画像は外国の街角でありますが、神楽坂にも似たようなスポットがございます。
不思議な広さをもつ階段があり、そこを降りると街灯に彩られた空間に出るのであります。

とくに夜間だと、「ここはどこなのだろうか」と奇妙な錯覚におちいることもたびたびであります。

けっして嫌な気持ちになるのではございません。
心身の疲労が揮発していく和すらぎを覚えるのであります。

振り返ると階段の上の通りを数人の男たちが声高に笑いながら過ぎていきます。姿はみえませぬ。声だけ。

すると、いつだったかの恋のはじまった夜の出来事が思い出されるのであります。自分は、その恋を思い出したくて、この一画を歩いてきたのだと、思ったりもいたしますです。

我々は…そうです。私メと彼女は、ある雑居ビルの上階の客の絶えた居酒屋でワインを傾けて居ました。何を喋ったのかは定かではございません。ボトルを二本空けたことは記憶しております。
時が過ぎ、エレベータに乗り込もうとしたら、別の店で飲んでいた男たちと鉢合わせになりましたです。困りました。彼女のくちびるの縦じわが開いたり閉じたりしていたからでございます。

エレベータの扉が開きました。

男たちも乗り込もうとしましたが、それを手で制し、
「わるいな、次のに乗ってくれ」といい、「我々はこれから…」とニヤリといたしました。
「これからkissをしたいから」と。

エレベータは下降をはじめ、目を閉じた耳に、男たちの笑い声が上から響き、罵倒にかわりましたが、やがて聞こえなくなりました。

明日は神楽坂。十傳スクールです。
スクールが終わった後に、久しぶりに、あの階段のスポットを訪れるのも悪くないな、なんて思うのでございます。
すっかり春になりましたね。夜は冬に戻りますけれど。

時は過ぎゆくのです。想い出だけを置き去りにして。