2017
05.07

もういっけん寄ろうか…と申したようであります。

ワインをボトルで二本も空けて、私メは、お酒を飲む目的を忘れておりました。

夜霧に彼女の新しいバッグが揺れております。
ダメダメと。
けれども「どこかいい店でもあるの?」
泥酔してはありましたけれど、その言葉が冷たい響きを宿していましたから、明確に記憶しておるのであります。
「ない」
と答えた私メは、そこで、はじめてお酒を飲んだ目的を想い出したのでありました。

おいおいと彼女の指をくすぐってみました。
握り返してきましたです。

と、いうことは怒ってはいないと解釈しても大丈夫かもしれませぬ。
「ひさしぶりだったよね」
「ひと月に三度は逢ってました、いつもは」

だっけ、と最初に逢った秋の日からのことを数え、だったよねと相槌を打つのでありました。

釧路は良いところなんだけれど、食い物がぜんぶしょっぱくてね。
と言ったかどうか定かではありませぬ。

たしかに言ったのは「このボタンはむずかしくてハズせないよ」でありました。

「かんたんだよ」
と彼女。

記憶はそこまでであります。

私メはひとりの部屋で大の字でありました。
朝日が透明でございます。

メールを開けましたが、何も届いておりませぬ。

私メは、やはり寄り道をして、さらにお酒を呷ったのかもしれませぬ。
そして、扉から帰っていく彼女を見送ったのかもしれませぬ。

すると激しい自己嫌悪が襲ってまいりました。
彼女が、どんなにか苦労してねん出した時間を、愚かにも粗末にしてしまったということを。

バカだ、バカだとおのれを心で蹴飛ばしながら、彼女からもらったうどんを茹でながら、額の汗をぬぐうのでございます。
「かんだんだよ」
手のひらには彼女の重さが残っておりますです。

また旅行しよーかな、私メは私メが嫌いになりかけておりますです。