2018
04.12

ふいに時間ができるのが私メのよーな稼業かもしれませんです。
フリーの編集者もそういう時があるらしく
「フーゾクにいくのさ」
しかし、そんなに若くない私メは、都内の名所周りをすることにしておりますです。

通り雨はタクシーで移動している時だけで、ぽっかりと晴れ上がったのでございます。

ここは旧岩崎邸。
一代にして三菱の創始者となった明治の怪物、岩崎弥太郎の孫が立てた邸宅であります。

べつに行きたかったから行ったというのではありませぬ。
たんなる気まぐれなのでございます。

携帯のメールには、川崎に住む従妹の死が送られていましたから、本当を言えば、向かうべきはそちらなのであります。
が、魂は川崎ではなく岩崎邸に向かわせたのでございました。

おそらく大名屋敷を手に入れ、そこを西洋風の庭に仕上げたのだと感じました。
名所というには、どこか落ち着きませぬ。
池がないからだと気づいたのはしばらくしてからでありました。
「きっと池を埋めたな」
この草原に池の配置を想像するとおさまりますです。

そして池だったところに数体の死体が埋められているのでは…。

ひとところに白い花がかたまって咲いているのを見た時、慟哭にも似た取り残された気持ちに襲われたのでございます。

それは次第にいらだちにのぼってくるのでございました。

自称アーティストと結婚し、美容師して生計を主ていた従妹は、ついに亭主の成功をみずに昇天したのであります。

そのいらだたしさであったよーであります。

川崎に向かわなかったのは、自称アーティストの顔を見たくなかったからでありましょう。

「くいものにしやかったな」
つきつめれば、その感情なのであります。

お粗末な才能…いやアーティストというご身分にもたれかかった生活のために、妻を犠牲にしたバカ者をただではおかないでありましょう。その日頃の感情をぶっ放しそーだったからであります。
やはり成功しなくてはつまりませぬ。
でなければ、土方とか、何でもいいからやって妻をやしなうのが本当なのであります。

迫力と才能によって財を築き上げた岩崎弥太郎の余韻に触れたかったのかもしれませぬ。

ときおりつむじ風が木々の梢を揺らし、すこしおくれて草花がその風に南から北へとなびいていくのでございました。

  1. ゾクゾクします。池に。
    暑い日に心地良い涼感ですね。
    頑張りたくないけど頑張ってきます。

    ●十傳より→草花の根に髪の毛が絡みついてますですよ、きっと。

    • 次回作も楽しみです。

        ●十傳より→あの庭園には地下道がございますです。

  2. お従妹様を亡くされたのですね
    突然のメ-ルで、先生、ショックを受けられたでしょうね
    お悔やみを申し上げます
    「髪結いの亭主」 とはよく言ったものです
    でもお従妹様、御主人を愛しておられたのでしょう
    愛する人を支えてあげる
    人によりますが、私は女性にとっては幸せなことであると思います
    ただ、傍で見ている身内としては腹タダしく思うのも 無理はないことでしょう
    川崎市に住んでいらしたのですね
    神奈川県には多数の親戚や姪・兄、そして、とても大切な人が住んでいます
    私直接ではないにしても、神奈川県には何かしらの縁があるのかもしれませんね
    昨日、従兄の奥さんの葬儀に出席するため、千葉県千葉市稲毛区稲毛町へ行って来ました
    兄の運転で、時間に余裕を持って早めに出たのですが
    途中、何度も兄が 「 これは早く着きすぎてしまうな 」と
    そして、あと30分ほどで会場に到着という時
    “ ポ-ン….. ル-トを変更します “ とカ-ナビの突然のアナウンスが
    結局、カーナビの誘導で会場へ到着したのは1時間後でした
    何度も「 早く着きすぎてしまう 」という兄の言葉を聞いて
    「 わかった、私にまかしとけぃ 」と気をきかしたのでしょうね

      ●十傳より→占うと、親の相続の遺産を求める心が芽生えている星が出ておりましたです。初爻に。

  3. 三菱だったか東芝だったか、どの電気会社だったかは忘れましたが
    誰でも知っている 大手電機会社の御曹司に
    当時、東京で働いていた父の従妹が見初められ求婚されたました
    でも、家が落ちぶれてしまった身の従妹は、身分の違いからお断りしたそうです
    そして他の男性と結婚し、男の子を授かったのですが
    弱い体のため 若くして この世を去ってしまいました
    もし、その御曹司と結婚していたらどうなっていたでしょう
    また、従兄である父も裕福な生活を送ったかもしれません
    しかし、自由を好む父にとっては決して幸せではなかったかもしれません
    人生というものは不思議なものです

    ●十傳より→じつに不思議で面白いのでありますです。

  4. 素敵な写真ですね。
    しっぽを立ててひんやりした地下道を巡った気分です。

    館を建てた人は、敷地に死体が埋まっていても平気だったのでしょうか?

    私も、おそらく死者の片腕やら骨の破片がどこかに埋まっているだろう土地に住んだことがありますが、なぜか平気でした。
    私が死なせたわけではないからなのか。感情移入できないだけだったのか。

    岩崎邸の主も、先祖がやったことと達観したのでしょうか。

      ●十傳より→地球は死体の宝庫でありますです。