10.02
昼のモリオカは私メによそよそしいのであります。
ちいさな城下町であります。
四方を山でかこまれた盆地のせいなのか、モリオカのお女性はなぜか悩みを抱え込むようであります。悩みがふき溜まって、どこにも逃げていかないのであります。
街は整備され、訪れる人たちを安心させるような街並みになっております。
住民は穏やかで常識的で、とてもひかえ目であります。
昼のモリオカにその雰囲気は集約されているといってもいいでしょう。
が、夜はちがいます。
どこの街よりも卑猥でお下品で情熱的なのであります。
暗闇をまって、女たちは昼の仮面をはぎとるとしかおもえませんです。
開放的になるというのではありません。
あくまでも陰鬱な情熱。
近親相姦的な昔から受け継がれている淫靡な情熱が、湯気のように夜の街を歪めるのであります。
もしも、「男が欲しい」「女が欲しい」と悶えているなら、夜のモリオカを訪ね、賑わっている飲み屋に入れば、すぐにでも接点を持つことが可能であります。
しかし、昼はちがいますです。
人々の悩みが舞い降りて、一種独特の静寂となって止まっているのであります。
ひとりで悩みをかかえこみ、いいえ、悩みが漏れ出すことをおそれているようにもかんじられるのであります。
モリオカのお女性のプライドの高さと見栄の張り方は、そこからきているようなのでございますです。
三年後、老母が死に、この街との絆の半分が切れたとき、私メは、この街とどのように向き合うのでありましょうか。
小さな頃に家出をして、夜になって、自宅の周囲をさまよったときに、自宅が他人のような顔をしておりました。ちょうど、引っ越した前の土地を再訪したときのような、冷やかさがおもいだされてなりませんです。
別れた相手と、偶然にすれちがったような、縁の切れた空虚な気持ちを味わうのでありましょうか。
このたびのモリオカはすこし他人の顔なのであります。
それでもモリオカは、先生の大切な大好きなモリオカ。
盛岡ではなくモリオカ。
街も飲み屋も、お家もお庭も、人も、思い出も…。
●十傳より→生活の拠点ではない、どこか架空の場所のような気もするのであります。