11.08
スタジャンを着たお女性に、惹きつけられるのであります。
ボーイッシュなお女性に弱いようであります。
半年以上、気に食わない目つきをした男がおりました。
居酒屋の調理場で、目をすぼめて私メを睨みつけていた男でありました。
ソヤツが店員が休んでいた時に、メニューを聞きにやってきやがったのでございますです。
「なんにしますか」
その声が、麗しいほどの美声。しかもお女性の声。
「えっ、女?」
おもわず聞き返したのであります。
みれば、なるほど首は細く、オッパイもあるのであります。
完全に男だと決めつけていたので、胸までみるつもりもありませんでしたというか、見たくもなかったのであります。
ダホッとしたTシャツに、バスケのパンツを履き、短髪でありましたから無理もございませんです。
瞬時に惚れたのでございました。
「アレのどこがいいのだ?」
と仲間に首を傾げられましたけれど、この思いに理由などございませぬ。
そのお女性も妙にやさしくなり…いや、乾いた優しさなのでありますが、それもイイのでありました。
デートした時に来ていたのが真っ赤なスタジャン。光沢のあるヤツであります。
飛び上がるようにして彼女の方から私メの肩を抱いて歩くのでありました。首根っこにつかまるように。
普通のお女性よりやや下についているオッパイの感触が腕に感じられてイイ気持ちでありました。
以後、「このお女性もボーイッシュが似合うなぁ」と思うのですが、なかなか思うようにはなりませんです。
「スタジャンに野球帽が似合うよ」
というのでありますが、レディーの着こなしをするばかり。
彼女もいまではお母さんになっているのでありましょう。
スタジャンを着こなした頃を忘れているでありましょう。
11月の雨の日に、大久保の私メの安アパートに、「もう国にかえらんといかんようになったの」と言いに来たのでありまして、きっとあの夜と同じような夜気が、記憶を刺激したのでございましょう。
「目つきをなおせよな」
と、とうとう、すぼめたような目つきで相手を見る癖は直らなかったのでありました。
しばらくして柚子がどっさり送られてて来たのでございましたよ。