2019
08.11

夏の保健室で、はじめてのくちづけを知った私メは、火薬の匂いのする烈暑のなかに欲情をおぼえてしまうのでありました。

十傳スクールのあと、シャツを着替え、商店街を歩いていましたら、スイカが目にとまりました。
大気はゆらぎ埃のたつ路上には影がのび、きわだつコントラストの向こうの八百屋に、熟れたスイカが売られておりました。

「あの真っ赤なくちびるだ」
教生で中学に来ていた年上のお女性の襞のあるくちびるを汚らわしく思っていたのに、いつしか脊髄が疼く魅力あるものとして体内の一部として根が這っているのでございました。
「若いのに頭が痛いなんて…」
化粧品の臭いが強いのでありました。

商店街でもとめたスイカを片手に事務所にもどり、果肉だけをえぐり、ハンドミキサーにかけたのでありました。
またたくまに液体となったスイカは、さらに色を深めておりました。

教生さんは、少年だった私メの前髪を指ではらうと、自分のオデコをそこにあてがうのでございました。
「…熱はないわね」

グラスに氷を落とし、熟した液体を注ぎ、冷やしたウオッカをキャップで二杯、そそぎました。
空の胃袋が、液体の冷たさで、次の瞬間カッと熱をもちました。

クリームよりかたく、ゴムまりより柔らかなくちびるが押し付けられ、私メの後頭部はウオッカのせいでしびれ火薬の匂いがいたします。
渡り廊下で口紅のついたくちびるをぬぐい、何度もぬぐい、そして、くちびるをぬぐうとスイカの切れ端がテーブルに落ちましたでございます。

晩夏のくちづけ…と名付けた、これが経緯でございますです。

夏の終わりに喉をうるおすと、マネーが転がり込む予感がいたします。