2012
09.04

ではでは、リクエストを忘れぬうちに。

『あひみての のちの心にくらぶれば
           昔は物を思はざりけり』

一般訳は、
「恋しいあの人。でも、その思いが叶って一夜をともに過ごしたあとの、悩ましくて切ない気持に比べたら、あの頃の恋しさなどまったく恋しい思いのうちに入りません」

まぁ、この訳でいいのでありましょう。
セックスする前と、シタ後の心の変化を詠んだ歌なのでありますから。

この敦忠は、在原業平の孫である母と、時平(菅原道真の怨霊によって死んだ男)とり間に生まれた、美貌の若者でありました。
そりゃあ、モテモテでありましたでしょう。
右近からは、
「忘れらるる身をば思わず 誓ひして 人の命の惜しくもあるかな」(すてられる私はいいのよ。でも神様に誓った愛を破ったあなたが天罰をうけて死んでしまうことが心配なのです)
なんてフラれた恨みの歌を送られたほどであります。
この恨みのとおり、敦忠は38才で死んでしまうわけでありますが……。

しかし、敦忠は、どういうわけか禁断の恋を好んだようでありますです。
彼は、もと文彦太子の、下で働く、近衛の少将で、敦忠が女の家に夜這いしたあと、その女に太子の後朝の文を届けていたのであります。
太子の死後、その女と敦盛は結ばれるのでありますが、どうやら、以前から太子の目を盗んで女と密会していたのでありましょう。盗んだお女性のお味は格別と申しますし。
でも、自分の惚れた女が、太子に抱かれている。その太子を朝まで警護するという苦しい立場だったのは事実でありまして、この歌は、そうしてみると、男の嫉妬を詠んだものかもしれませぬ。塀の中に忍び込み、二人の肉地獄を目撃しては、ひとり歯ぎしりと不思議な興奮に酔っていたとも考えられますです。

そして、もうひとつ、この歌には下敷きがございます。
敦盛の、その母は、以前は70才になる国経大納言の妻でありました。それは若く美しい妻であったことでありましょう。
それを甥の時平が奪い取ったという経緯がございますです。

70才過ぎの国経大納言は、醜い歯をむき出しにして嘆き、奪われた妻ののこした懐かしいお香の匂いのする衣を抱きしめていたというエピソードは、谷崎潤一郎の「少将滋幹の母」に語るところであります。
失われてはじめて大切な人の存在を知るという意味も、この歌に込められているようであります。

と、そこまで考えて、私メは、ルキノ・ビスコンティ監督の映画「ペニスに死す」を思い出したのであります。
美青年に恋をした老芸術家の心の苦しさを、この名作は絶妙に描き出しておりまです。

そして、果たして男が、セックスをしたお女性に、これほど執着するだろうかと、首を傾げましてそうろう。
いや、たしかに、床上手のお女性は存在し、男を狂わせるものであります。
しかしながら、この歌は、男の気持ちより、お女性の気持ちに近いのではないでしょうか。

快楽を教え込まれた男から、お女性は容易に離れられなくなるものであります。
さきほどの、右近の歌こそ、その情念が込められておりますです。
が、男は、それほどの情念をお女性におぼえることは珍しいことであります。
別のお女性を追いかけるのが、男の持って生まれた行動でございますですから。

そうです。
この歌は、男色の悦びと切なさを訴えたものなのでございます。
以前は普通に会話していたけれど、いちど男色の関係になってからは、その男のモノを意識しないではいられない。
オレだけの男であってほしい。
別の男と交わっている姿を想像しただけで気が変になりそうだ。

ちなみに、「後の心」とは、アナルの心とエロ訳可能でありますですね。

これで、この歌がすっきりと心におさまるではありませぬか。

  1. あー…
    ボーイズラブですか…。
    保毛田保毛男でしたか…。
    アイワズゲイ(有森ゆうこさんの元夫のガブちゃん)のお話でしたか…。
    いつの世も、よくある話ですよね…。

    私、女性が詠んだ歌かと思ってました。
    たしかに敦忠ほどのモテ男が詠む歌にしては、少々ねっちょりしてますよね。

    むかし好きだった人が、「あいみての後の心にくらぶれば…」って言ったから、
    「昔はものを…」って私が言って、
    「思わざりけり~」って、二人で一緒に言って笑いあった思い出があったんですよ。

    なんとなく別れちゃったのは、もしかして彼は…
    いやいや、考えるのやめとこ。

    先生。
    早速リクエストに応えてくださって、ありがとうございました!
    次の百人一首も楽しみにしてまーす。

     ●十傳より→エロ約百人一首はけっこう大変なでありますです。

    • そうなんですか…。
      気軽にお願いしてしまってゴメンナサイでした。

      ●十傳より→人名の漢字変換が大変、という意味でございますです。