11.16
いったい、どれほどの方々が、奥のソファーに座ったことでありましょうか。
購入してから14年以上も経ちましょうか。
知らぬうちに、クッションの効きがやや悪くなったとはいえ、高級家具でありましたから、まだまだ使えるはずでありました。
恋の悩み、事業のこと、仕事のこと、家族の病気、対人面での懊悩…。
悩み相談は、人それぞれ。
相談者は、このソファーに座るのでありました。
私メも昼寝するときには、ごろりと横たわりました。ちょうど頭の部分に手すりが枕がわりになって具合が良いのでありました。
想い出の重さを吸いつくしているソファーなのでありました。
しかし、さようならなのでございます。
ありとあらゆるモノを捨てると決めたのでございます。
丸一日かけて、ご覧のとおりになったのでありました。
妙に寒々しく、声がバカに響くのでございます。
やがて、この部屋には長机やボードなどが運び込まれ、ちいさな教室と様変わりするのであります。
方がたの悩みを吸い込んだソファーは廃品業者が持っていく手はず。
悩みという過去の遺物から、希望という未来のパワーへと、室内は、その形態を変えるわけであります。
ハッ、ハークション!
くしゃみが出ました。
人々の悩みなどがソファーと同時に失われたためか、とたんに風邪をひきそうになるのでありました。
コレはいかん。
薬を飲食しなければと。
自分ではAランクをつけている寿司屋へ。
そこでボジョレ・ヌーボも。
むろん、熱燗も。
二合徳利で六本やりましたら、けっこう酩酊。
弱くなったものでございます。
いや大掃除という肉体疲労なのでございましょうか。
労働のあとの飲食…いやお薬は、じつに良いモノでありますです。
久しぶりの寿司屋だったので、オヤジはかなり腕によりをかけていまして、お金を払うのが悪いくらいに美味いのでございました。
もはや高級ソファーのことは、頭から消え去っておったのでございますです。