02.14
寡黙な一人の老人がおります。
誰とも会話せず黙々とメニューをこなす70代とおぼしき老人。
が、機械の使い方が間違っているために成果が出ていないように見受けられておりました。
ところが昨年の11月のあたりから、私メのやり方を真似ているような気がしていたのであります。
たとえば、私メの使った器具を、「待ってました」とばかりに使用するのであります。
最近では、その器具を私メの前に使うのであります。
が、使用後の後始末をいたしません。背もたれは汗ばんでおります。うっかりすると私メのスポーツウェアに染み込んでしまいます。
ので、消毒薬でキレイにしてからでないと、老人の汗で汚らしいのであります。
さらに今年になって、私メの隣のランニングマシーンで、はぁはぁと息を切らしつつ走るのであります。無表情で。ときおり午後の紅茶を飲むのも特徴でありました。
それよりなにより汗が飛び散るのであります。マシーンの周辺は汗の飛沫で点々と濡れております。
いちど脱衣室で裸体を目にしたことがございます。
おっ! と目を見張りました。
性器が使用可能な形状なのでありました。
多くの老人たちの性器は、湯葉をつまみ上げたよーにぐちゃりとしおれ、長年使用していないことが見て取れるのに比し、彼の性器は大きくはございませんが、粒立っており現役の状態なのでありました。色も赤味を帯びているのであります。
「女かな…」
入れ込んだお女性がいて、彼女との情交に備えて、体を鍛えているのだと思っていたのであります。
しかし、それにしては頭の上部が禿げており、いや、それよりもお女性がいるような色気がございません。
それでいて妙な粘着感が漂います。
といって、それほど意識はしておりませんでしたが、不可解な老人だと注意はしていたのでございます。
本日、バレンタインデーの日。
視線を感じました。
老人は、直前まで私メの使っていた腹筋を鍛えるマシーンに、体を擦りつけるよーにして、10メートル向うから、異常に黒光りする眼光を放っていたのでありました。
黒光りしていながら濡れた眼のふちが濡れているような視線。
まさしく桃花眼なのであります。
彼は、つと立ち上がると近づいてきたのでございます。
きんちゃく袋を持って。
チョコが入っていたのであります。
禿之丞ホモ助さんと名付けました。反射的に。
泳ぐように階段をかけおり着替えをして、表に飛び出しました。
生臭い春の陽光が濁っておりましたです。
「蘭丸さま…」
心に思いました。声に発していたやもしれませぬ。
ゲイに好かれるビジュアルですよ。
●十傳より→こまります~