2012
08.21

夏バテは意識していないうちに、じんわりと忍びよるものでございます。悪いお女性を意識するように。
あるいは性根の曲がった男が気になるように。

食えば食えるのに、食うまで食欲が湧かないのが夏バテの兆候。
気づいたときには根性まで腐敗するおそれがございますです。

牛タンと牛ハツの塩コショウというシンプルなヤツであります。
ニンニクで香りをつけ、下に敷いたのは玉ねぎのスライス。

それをナイフとフォークで食うのがミソ。
朝鮮料理のように箸で食うのは肉のうまみを半減させるのでございますです。

それにキミ。
キミってのはトウモロコシのことであります。
岩手県ではキミが通称名。
行商のお婆さんが、背中の籠にトウモロコシを山ほどいれて、
「キミおげってけらえん」(通訳=キミを買ってください)
と家々をまわって歩くのでございます。

そしてむろん、赤ワイン。
フランスワインより、素朴なイタリアワインが合うのであります。

すると胃袋は、
「おやおや、なんですか、これは」
「牛肉ですよ」
「いばらないでください。牛肉ったってホルモン系でしょうが」
「すみません、すみません」
と、赤ワインに肉の繊維がほどけていくのであります。

やや強めにふった塩が、肉の甘さを引き立て、キミからの汁とまざりあい、体液に注入されていくのが分かるのであります。

90分ほどかけてゆっくりと食った後は、トマトの丸かじりでシメといたしました。

これから九月の中旬にかけて、カラダが悲鳴をあげるときであります。
「ああ…っ、ダメぇ」と。
定期的に、かような料理をいたしませぬと、気だるくて、秋の恋に対応できませぬぞ。