2012
08.18

執念で岩手山の山頂をきわめたのでございます。

このたびの登山はバテましてございます。
最初は雨でして二合目付近から登山者がみな降りてくるのであります。

が、山の天気は10時にならないとわかりませぬ。
雨をよけるために、がれ場をさけて密林のルートを選びましてそうろう。

すると四合目あたりから日が差し始めたのでございます。
かわりに大量の汗。
汗腺が開きっぱなしになり、汗がだくだくと流れ出すのであります。

体力をいちじるしく消費してしまい、六合目では軽い高山病に。
このままだと下山する体力があるかどーか。

しかし、今死ぬのと、ジジイになって癌で死ぬのと、どちらが幸せなのかという山登りが陥りやすい死生観にとらわれ、いっぽいっぽ、おのれを励まし、ダマしつつ、ついには山頂にたどり着いたのでありました。

画像はガスにつつまれていますが、気まぐれに雲が切れ、数秒間だけ、バカに明るい陽光が思わぬ景色をダイナミックに見せてくれるのでありました。

八合目の山小屋のオヤジはカップヌードルの容器に熱湯を注いでくれながら「今日は五組しか登っていないなぁ」と語るのでありました。
カップヌードルとコンビニのおにぎりを胃におさめると、不思議に体力が戻りましたから、しぼるほどの汗のシャツを脱いで、新しい下着に着替えたのでございます。

画像は八合目からの眺望であります。

ときどき、ダ、ダダダダッ、ダーンと音が聞こえるのは、演習場からの訓練の銃声であります。

ふるえる膝頭をさすりつつ下山。

私メの夏は、こうして終わりを告げようとしているのでございます。

疲労困憊で、2リットル以上の水を飲みながらの登山でありましたが、なぐさめは、つかの間の夏に咲く高山植物でありました。

ふだんは目にもとめない可憐な花を見いるのは、いちじるしい疲労の証左でありましたでしょう。
つかれると眼球の動きも鈍くなり、そのような花を眺めてしまうものでございます。

斜面にへばりついたまま、その花々を、この世の最後の見納めにするのもまたイイのかなぁとも思うのでありました。

いままで気づかなかった、お女性のやさしい声に、いまさらのように気づくようなものであります。

傷つき絶望した時にしか感じることのできないお女性のやさしさ。

ああ、おまえはこういうことを伝えたかったんだね。
取り返しのつかないほど時間が経ってしまってから、はじめてわかる言葉の真意が、ほとんど朦朧とした脳髄をふるわしてくれるのでございます。

いくどとなく尻もちをつきながら、がれ場を下山するのでありました。
まるで大雨に打たれたように汗でぐっしょりになるほど濡れた髪の毛に、アブがまつわりつくのでございます。
それは、下界に戻ったことをしらせる、なまぐさい証でございした。