2014
02.05

ひどい風邪も快方へと向かい、近くの魚屋でもとめたホタルイカを熱燗の友といたしたのでありました。

まだナマは胃に負担だろうとボイルしたものにいたしましたが、来るべき季節の息吹が感じられるのでありました。

いつの年のことでしたでしょうか。などと、まるで源氏物語の書き出しのようでありますが、もう10年も前のことのはずなのが、時の遠近感を失って、つい去年のようでもあり、夢の中の出来事のようにも感じられることがございます。

ある年、私メはポルシェを運転し関越道を遡上し、新潟から村上、直江津だったかを抜けて冨山、氷見へと向かったことがございますです。むろんお女性に逢うためでありました。
高速の両脇には雪が積もっておりました。
氷見で食ったホタルイカとお新香巻は、いまでも忘れられませぬ。

ポルシェは背中にエンジンを背負う設計になっておりますから、振動を膀胱が吸収し、小便が近くなることが欠点でありました。
お女性とかわるがわるに尿意を刺激され数キロごとにサービスエリアで休むことになったことを懐かしく思い出しますです。

彼女とは、その後どうなったか、あまり記憶にございませぬ。
冨山から氷見までの短いドライブだけが記憶に残っているすべてでございます。

春たけなわの季節に助手席のマットにかくれるようにミカンの小さな皮がみつかり、「あいつの食ったやつかな」と思いましたけれど、それも不確かでございました。

やがてクルマをたたき売り、別のクルマに乗り換え、さらに幾台かのクルマを経験いたしましたけれど、いまおもえば、あのツーシーターのフルオープンのポルシェには素敵な思い出の断片がいくつかあったように思うのであります。

もはや視力が衰え、クルマより自転車というように退化いたしましたが、寒い夜にホタルイカを肴に熱燗を傾けましたら、ふと、チェロが奏でる低い旋律のような北陸の深い夜の白さを思い出したのでありました。