2020
02.10

朝から仕事をしていましたたら、チャイムが。

宅急便のお姉さまが、小首を由高のように、心持ち傾げ、
「ハンコください」
どのハンコ? みたいなジジネタはやめて、素直に
「ありがとう」

箱を開けてビックリ、蟹さんでありました。
タグ付きの松葉ガニ。

いきなり仕事をミスしてしまいましたです。吉高由美子似のお姉さまではなく、蟹のために。

遠い福井の思い出がございます。
真冬の、冬の夜の福井。
電車がパンタグラフから火花を散らし、福井の街の交差点をまがったところにあるお店。
黒龍を冷でグラスに注ぎながら、蟹味噌を舐めていたのは、あれは福井テレビ主催のイベントで
「このまま帰るのは惜しいから」
と、ホテルをとった20年以上も昔でございます。

原稿を書くのが楽しくて仕方のなかった40代半ば。
まさかスクールを主宰する未来が待っていたとは信じられないのであります。

蟹さんも生まれて時には、私メの胃袋におさまる末路だとは思ってもいなかったでありましょう。

暗い琵琶湖の東側から雪に閉ざされた福井に入り、それから会場までどのように向かったのかは記憶にございません。本田美奈子がホールで歌い、我々はホールの片隅のブース。彼女はその数日か月後に亡き人になったのでした。

あの頃のメンバーも老いていることでありましょう。

黒龍を一升近く飲み、それでも飲み足りなくて、トドメのウィスキーのロックを7杯ほど、近くのバーで胃に流し込んだものでございます。

美人の産地であります。ただ下半身が豊かなのは、重たい雪を片付けるためでありましょう。ですからほっそりしたお女性には、
「気をつけるのよ」
バーのママさんが冗談めいて語っておりました。

繊細な松葉ガニのお味。瞬く間に四杯のカニさんは甲羅ばかりになってしまったのでございます。

ふと、幻のよーな福井のチェロの似合う夜の街の思い出に浸ったのでございます。