2020
02.24

一通の古ぼけた封書が出てまいりました。
消印も消えてしまっているのですが、宛名は、私メの母の母。フラッパーの祖母であります。

差出人は、聞いたこともない男。

候文でして、しかし、二枚目の頭に、
「愛情止みがたく…」
の一文に目を奪われてしまったのでございます。

恋文でした。

「されど小生、未だ一家の計をなさず、能に欠け結婚の時期ならびに…」
と続いております。

どーやら、市内の医学生が、若かりし頃の祖母に心を奪われ、求婚の文でありました。

瞬間的に祖母の美しい乳房が思い出されました。
六十歳過ぎの祖母が、高校生だった私メが入浴していた浴室に、誤って入ってきたことがございます。
いやーん、と言うかのよーに、陰毛を隠したために両腕から白い乳房が露わにこぼれていたのであります。
わずか一秒にも満たなかった裸身が50年もたった今でも新鮮に思い起こされるのでございます。

祖母から毛嫌いされていましたけれど、さらに他人のよーな目で見られることになったのは、これが契機でありました。

恋文の主との関係の深浅はもはや謎であり、両者ともこの世の人ではございません。

手文庫には、まだ別の男からの手紙が数多く保管されております。
祖母は老いてから、これらを懐かしく読んだのか、
いやーー

私メは首を振るのであります。
あのフラッパーの祖母が過去を懐かしむよーなお女性だとは信じられないのであります。小鼻でせせら笑うよーに私メに接した彼女には涙とかも似合いませんです。

おそらく、
自分が翻弄した男たちとのあれこれを、死後に子孫たちを驚かせるために、ひとつの手文庫にまとめたのではなかろーかと。
ふたたび美しい乳房がよみがえり、その乳房はどれほどの指を知っているのだろう。
とても奇妙な感覚で、罪深く、立ち入ることの許されない妄想に脳髄がジンと痺れるのでありました。

仕事どころではなくなりましたです。