2012
01.06

ゆで卵が好物なのであります。

とくに駅で販売している、塩味のゆで卵はたまらないほど惹かれますです。

まだ10代の頃、私メは東京から盛岡まで強制送還とかで東北本線に乗っておりました。
となりには苦しいほど好きだった不良娘が眠っておりました。

車内販売で買ったゆで卵をむいて塩をくっつけて食うのですが、胸につかえるのでありました。
車窓はまっくらで人家の明かりが上下に揺れておりました。

いま販売されているゆで卵は殻付きなのに塩味。

どーやら、それを自分でも作れるそうなのであります。

普通にゆで卵を作り、それを冷たい塩水に一時間ほど浸すだけ。

熱いゆで卵は、冷水で収縮し、殻と白身が離れるそうであります。すると殻の穴に塩水が吸われ、さらには薄膜をも何とかの原則によって塩水が沁み込むという話でありました。

で、そのとおりに、熱々のゆで卵を、氷をいれた塩水にとっぷりと落としこんだのであります。

が、その時から、そんなに上手くいくはずがないと思っておりました。

二戸のどこかで作られているそのゆで卵には「作製方法は企業秘密です」と小さく記されてたことを記憶していたからであります。

やはりでありました。
失敗なのであります。

いつもと同じゆで卵。
塩味の欠片もございません。

胸をつまらせた東北本線で食った甘苦しい、あのゆで卵でございました。

ぺったんこのカバンを抱え、長いスカートをひきずるように歩いていた不良娘も、生きていれば、もう56才であります。
どうしているのでありましょうか。

抱きしめると甘酸っぱい体臭を胸元からむして、私メのくちびるを細い髪をはわせ、海苔みたいな味がするまでながいベーゼを繰り返した不良娘は、いまどこにいるのかと、はんぶん齧ったゆで卵を手にしながら空想するのでありました。

ずいぶんしてから生年月日をしらべたら淫蕩な運命でありました。
淫蕩な娘は、老いてもなお淫蕩なのかどーか。

塩味のしみこんだゆで卵をどうしたら成功させられるのかと、私メはかわるがわるに別なことを想念いたすのでありました。