2013
02.05

男とお女性は、いちど歯車がくるってしまうと、そこから浸食が始まるようでありますですね。
表面的には修復したように見えても、狂った歯車は思っている以上に、内部で腐食しているのでございます。

授業時間にみょうに静寂感につつまれ、誰かが「雪!」と窓の外を指さすのです。朝からの雨は、雪へとかわり、ゴミのように降っているのでありました。東北の冬は、その瞬間に始まり、春になるまで雨とはサヨナラなのであります。
冬の間に出会い、別れるという短期間の恋のフルコースを体験した場合、二人は雨のない関係になるのであります。
空のふちが青みがかった三月にその年初めての雨が降り、この前の雨は12月の初旬だったことを、ずっとしてから思いだしたりするのでありますです。

東京は冬でも雨が降りますが、あの日の雨は冬を告げる雨だったかもしれませぬ。
爛れた後に、おもてに出ると細かな雨がまつわりつくように降っていたのでありました。
どこでもいいからと、焼鳥屋の軒下で、雨滴をはらい、しばしの雨宿り。
「美味しいね」
「おいしい」
と、思いがけない店で、おもいがけない一品を二人でつつき合い、それはたしかに暖かな濁情でありました。
「来週は都合がつく?」
「わたしはいいけど…」
「オレも大丈夫」
と約束をしたのですが、その約束が果たされることはないのでありました。

ささいなメールでのトラブルが原因なのであります。

いいえ、お女性にとっては些細なことではなく、心の内部で腐敗していたことに関連することだったのでありましょう。

ふたたび雨の日に、交差点のひとすじ入ったところにある店の前を、仕事の途中に通りかかりました。
雨の滴を振り落としている男女がございました。

濁情ってヤツは、それぞれ個性があるのかもしれませぬが、俯瞰すればおんなじ鋳型にはまっているとも思えますです。

郷里から電話がございました。
「オノくん、久美ちゃんが別れたのよ」
飲み屋をしているクラスメイトからでありました。
「ダンナのDVがひどくてさ」

受話器からの声を聞きながら、空を仰ぎましたら、いまにも泣きそうな空模様なのでありました。