2018
04.01

4月からの新しいスクールが始まったと同時に、旅情をそそられる気持ちが芽生えたのであります。

遠い遠い北の、霧の町の情景が心に迫ってくるのでございました。
耳にはチェロの弦のふとい音がスローにひびくのでございます。

珈琲の香りや風の重さまで感じられるのであります。
風は風見鶏をいたずらに軋ませ、春に逆らうような冷たさを運んでくるのでございます。

どーやら、奇門遁甲初等科と四柱推命初等科の講義に疲れたのかもしれませぬ。
なにしろ第1回目は十干十二支の基本からやらねばならず、これがじつに大変なのであります。
講義が滑り出せば、リズムが弾みだすのでありますけれど、そこまで漕ぎ出すのが体力勝負なのでありますです。

今回は、優秀な師範候補生を増員いたしましたから、いくぶん精神的には楽なのでありますが…。

チューハイにしずかに酔いながら、それでも瞼を閉じると、そこは霧の町なのであります。
機は、赤茶けた針葉樹林に手が届きそうなくらいの低空で、かなしい滑走路へと霧のなかをワープするでしょう。

荒れ野をバスは、やはり霧の中をさびしい町へと向かうことでありましょう。
空腹を塩辛いカツ丼で満たすことになるでありましょう。

埃の沁みついた舗道をコツコツと歩き、とある店の扉を開くと、
「まあまあ、久しぶり」
けれど無言で私メを迎え入れてくれるでありましょう。

眼を開けると、そこは盛りを過ぎた桜の大船を東海道線は通っていたのでございます。
コマ落としのフィルムを見ているように人々は階段を上がり、階段を下りているのでありました。

「今日は充実した日であった」
などと、霧の町を夢想したことも忘れ、電車を降りる準備。
そーして茅ヶ崎の駅を、人々に混じりながら急ぐのでございます。

散り染める桜の夜の通りを。

赤い月を。

霧の町を。

あの世へと。