2019
05.25

モリオカまでの新幹線で、老人がお隣にお座りになりましたです。

一人旅のご様子でありました。

膝が出ても大丈夫なように、初めから折り目を縫い付けているおズボンを履いてらっしゃいました。

思い出の地をも再訪するのでありましょーか。予定表には、各駅の通過時間がメモされ、退職前の仕事が何かを彷彿させるのでありました。

午前中でしたから、死臭はまだ漂ってはおらず、車窓の風景を打ち眺めるお姿は、なかなか好感のある哀愁なのでございます。

「吉田のおっちゃん」
と名付けました。

その昔、京都の修学旅行専門の旅館で、働いていた不思議な占いの老人が、「吉田のおっちゃん」と呼ばれていたことは、なんどかUPしておりますです。
本物の吉田のおっちゃんは殺人者でして、目と眉が薄かったのですが、この一人旅の吉田のおっちゃんと、醸し出す哀愁は似ておるのでありました。

仙台を過ぎたころ、売り子を呼び止め、
「あんばん、あんぱん」
小銭入れから、大事そうに150円を探り出したのでありました。
「グランクラスにはどー乗ればイイのか」
とお聴きになりました。

売り子さんではラチが明きません。
「そうかい、そうかい」
吉田のおっちゃんは、受け取ったレシートをメモ帳に小指を器用に使って貼り、おもむろに、あんぱんのビニールの袋をひらき、あんぐりと口にいたしました。

あんぱんの甘さが刺激したのか、唾液でむせび、飛び散った飛沫を、お手拭きでぬぐい、何事もなかったよーに、あんぱんをあんぐり。

北海道の風に吹かれてたたずむ廃墟が浮かびましたです。
バイオリンの旋律が聞こえた気がいたしました。

最高にイイ日だ…私メはモリオカに降りる準備をいたしましたです。